2011 Fiscal Year Annual Research Report
精神疾患者の雇用における権利保障システムに関する研究
Project/Area Number |
22830002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
所 浩代 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教 (40580006)
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Keywords | 障害 / 社会保障 / 社会福祉 / 国際情報交換 / 差別 |
Research Abstract |
本研究では、精神疾患および障害のある労働者の人権を実質的に保障するために必要な救済制度のあり方を、アメリカ法(ADA第一編)を素材に考察した。成果は、次のとおりである。 ADAによりアメリカでは、障害者が、「合理的配慮」を受けて職務の本質的な部分を遂行できる場合には、使用者にその配慮を求めることができるという仕組みが整えられている。もっとも、判例法理では、合理的配慮をうけるためには、障害者の側が配慮の必要性を使用者に申し出なければならないと解されている。くわえて、その配慮の内容についても、障害者の側である程度具体的に説明しなければならないとされている。このような解釈は、障害者の意思を尊重するという姿勢と、障害を補う配慮の方法にバリエーションがあるという実質的な事情に基づくものである。しかし、この解釈は、精神障害の場合においては、労働者の配慮をうける機会を結果的に狭めるという効果を生じさせている。 つまり、精神障害の場合、休暇の取得や労働時間の短縮など、一定の措置を受けることによって、症状が改善され、雇用関係を継続することができることが多い。しかし、統合失調症などは、社会的なスティグマの強く、病気を明らかにしたとたんに、解雇されるおそれがあるため、本人が病気を打ち明けることをためらう場合が多い。また、うつ病の場合、本人の意欲が低下し、適切な時期に自分で配慮の必要性を伝えることができず解雇されるという例がみられる。精神障害者の場合には、このような提供プロセスの課題に取り組む必要があるのである。アメリカでは、これに対処するために、裁判に至る前に、ADAの利益を享受できるよう、裁判外紛争解決手続の整備が進められている。要するに、アメリカの障害者法制では、精神障害のケースにみられる司法救済の限界を、ADRの整備によって補完しているという特徴がみられるといえる。
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