2010 Fiscal Year Annual Research Report
不法行為法における「権利侵害」要件と「損害」要件の関係に関する比較法的研究
Project/Area Number |
22830021
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大澤 逸平 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 助教 (40580387)
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Keywords | 民法 / 不法行為 / 権利侵害 / 損害 / 損害賠償 |
Research Abstract |
本年度の研究活動においては、第一に、不法行為の原則規定である民法709条の例外規定である民法711条の構造分析を行った修士論文に加筆修正を行い、公表した。同論文は、フランス法を比較法の素材としつつ、711条が定める請求権が、709条によれば賠償されるべき「損害」に含まれないはずの近親者の慰謝料を「損害」に含めることによって、死者に対する権利侵害を行った者への制裁を確保するためのものであるという構造を抽出しようとしたものである。同論文によって、「権利侵害」要件が、賠償すべき「損害」を画定するにあたって一定の積極的意義を果たしていること、ひいては「権利侵害」要件と「損害」要件の関係の一端を示し得たと考えている。 もっとも、同論文は、711条といういわば例外的な場面に焦点を当てたものであって、より端的に、709条自体に焦点を当てた検討の必要を痛感したところである。そこで、本年度においては、第二に、侵害された被害者の「権利」と「損害」算定との関係について、検討を開始した。この問題は、日本法においては、比較的古くは人身損害の包括的算定の是非との関係で、比較的最近では、規範的損害論との関係で論じられてきたものと一定程度重なるものであるが、近時の議論においては、「権利侵害」をただちに損害賠償に結びつけるような傾向もまま見受けられるように思われる。この問題に関する検討は、いまだ成果を公表する段階にはないが、来年度中に、その一端を公表する予定である。
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