2011 Fiscal Year Annual Research Report
不法行為法における「権利侵害」要件と「損害」要件の関係に関する比較法的研究
Project/Area Number |
22830021
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
大澤 逸平 専修大学, 法務研究科, 講師 (40580387)
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Keywords | 民法 / 不法行為 / 権利侵害 / 損害 / 損害賠償 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に公表した成果において示した、711条において被侵害利益の帰属主体と賠償請求権者の行使者が乖離するという状況が存在することをふまえ、この着想をさらに敷衍し、深化させることとした。そこで着目したのは、建物の「基本的安全性」を欠くことを理由に建物の設計者らに不法行為責任が成立することを認めた最判平成19年7月6日民集61巻5号1769頁である。筆者の分析によれば、同判決にいう「基本的安全性」という概念は、不特定多数の者が建物に対して有している利益を反映したものであり、基本的安全性の回復のための損害賠償請求は、不特定多数の者の利益を代表したものと位置づけることが可能である。このような分析を基礎として、生命侵害における711条に基づく請求権の場合や、フランス法における環境損害の場合に関する議論を比較対照しつつ、賠償請求権者に帰属しない利益への侵害に基づく損害賠償請求制度について、あるべき制度及び解釈論を模索したのが、本年度において公表した「建物の基本的安全性の瑕疵に関する不法行為責任について--最判平成19年7月6日及び同平成23年7月21日を契機として--」である。同論文によって、不法行為法上の「権利侵害」要件にいう被侵害利益の帰属主体と賠償請求権の主体(「損害」の帰属主体)が分離することがもたらす問題と、ありうる解釈上の解決(賠償金の使途の限定や原告の限定の方途など)を提示することによって、問題の構造を一定程度明らかにすることが出来たと考えている。
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