Research Abstract |
本研究の目的は,フロー理論を分析枠組みに措定し,(1)授業中,教師に生起する喜びや楽しさといった快感情が教師自身の認知,行動,動機づけにどのような影響を及ぼすのか,(2)教師は快感情を強く経験する授業で生徒に対してどのような働きかけを行い,生徒はそれにどのような反応を示すのか,の2点を検討し,授業における快感情経験が教師の実践を具体的にどのように支え,洗練するのに寄与しているのかを明らかにすることであった。 そのために,平成22年度にはフロー理論とその研究手法,および教師の感情に関わる基礎研究を行うと共に,フローを捉えるために開発された経験抽出法質問紙(ESM)の教師用を開発した。教師用ESMの開発にあたっては,中等学校教師を対象に授業終了直後,質問紙調査を複数回実施し尺度の信頼性・妥当性を高めた。また,平成22年度中には上記の基礎研究および開発研究が進展したため、平成23年度実施予定の実践研究も開始した。その研究結果を受け,特に,授業における教師による実践の省察と感情との関連性について研究を進め,日本教育方法学会第46回大会で研究発表を行い,福井大学教育地域科学部紀要に研究論文を投稿,採択され,教師の快感情経験に関する理論を前進させるに至った。 以上,平成22年度研究成果として得られた知見として,教師は授業の挑戦水準と自己の能力水準を高く評価する授業で喜びや楽しさを強く経験し,同時に注意集中といった認知能力,生徒に対する積極的な働きかけや活力といった活動性,授業への専心没頭と統制感が高まることが示唆された。以上の研究成果か,授業におけるフロー体験が教師の即興性や創造性などの専門性の発揮と発達を促す役割を果たしているという重要事象の存在が示唆され,本研究の意義として,教育実践と教職専門性研究双方に有益な示唆を与えることが示された。
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