Research Abstract |
本研究の目的は,フロー理論を分析枠組みに措定し,(1)授業中,教師に生起する喜びや楽しさといった快情動が教師自身の認知,行動,動機づけにどのような影響を及ぼすのか,(2)教師は快情動を強く経験する授業で生徒に対してどのような働きかけを行い,生徒はそれにどのような反応を示すのか,の2点を検討し,授業における快情動の経験が教師の実践を具体的にどのように支え,洗練するのに寄与しているのかを明らかにすることであった。 そのために,フロー理論とその研究手法,および教師の感情に関わる基礎研究を行うと共に,フローを捉えるために開発された経験抽出法質問紙(ESM)の教師用を開発した。教師用ESMの開発にあたっては,中等学校教師を対象に授業終了直後,質問紙調査を複数回実施し尺度の信頼性・妥当性を高めた。この研究結果を受け,日本教育方法学会第46回大会で研究発表を行った。また,国際会議において,本研究に関する研究発表も行った。以上の取組に基づき,『教育方法学研究』第36巻に本研究課題が学術論文として採択されることとなった。また,研究が進展したことを受け,本研究課題を探究するための実践研究として,授業における教師による実践の省察と感情との関連性について研究を進めるに至った。 以上,本研究成果として得られた知見として,教師は授業の挑戦水準と自己の能力水準を高く評価する授業で喜びや楽しさを強く経験し,同時に注意集中といった認知能力,生徒に対する積極的な働きかけや活力といった活動性,授業への専心没頭と統制感が高まることが示唆された。以上の研究成果から,授業におけるフロー体験が教師の即興性や創造性などの専門性発揮及び専門性開発を促す役割を果たしているという,教師の情動的実践に関する重要知見が得られ,教育実践と教職専門性研究双方に有益な示唆を与えることが本研究の意義及び重要性として挙げられる。
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