Research Abstract |
初年度(平成22年度)の研究活動は,研究資料の収集・整理・分析をとおして,数学教育における概念変容研究の理論的基盤を明確にし,その視座から学校数学カリキュラム構成を批判的に検討することで,具体的な内容領域における概念変容場面を同定することを計画し実行した。 最終年度(平成23年度)は,初年度の研究活動を受けて,「変数性に関する概念変容」に焦点をあてて,とくに「式」のコンセプションの変容を捉える理論的枠組みの構築やその妥当性・有効性に関する実践的検討を進めた。理論的考察として,スファード(A. Sfard)の具象化理論と平林の数学的表記論に依拠しながら,記号的代数と関数概念の歴史的系統発生を分析したり,学校数学における代数領域や関数領域のカリキュラム構成を検討したりすることを通して,変数性に関する概念変容の諸側面を明確にした。その成果は,「式」のコンセプションの変容を捉える解釈的枠組みとして理論的に提示しただけでなく,枠組みの諸要素や要素間の関係について具体的事例を通して検討した。実践的考察として,平成23年度後期に,理論的枠組みの有効性を検討するため,大学附属小学校の算数科教員に協力を仰ぎ,小学校第6学年1クラスにおいて教授実験を計画・実施した。第6学年をターゲットにしたのは,数字式から文字式への移行や比例から関数への展開という移行期に焦点をあてたからである。 本研究の意義は次の2点である。第一に,算数と数学の接続という今日的課題に対して,概念変容という角度から,カリキュラムや領域の構成を検討することを通して,具体的な概念変容場面として「変数性に関する概念変容」を同定したことである。第二に,理論と実践の統合という今日的課題に対して,「式」のコンセプションの変容を捉える枠組みに基づく授業を設計・実施し,理論的妥当性や実践的有効性を検討したことである。
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