2010 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパ不法行為法における企業責任の新たな帰責原理の比較法的研究
Project/Area Number |
22830097
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
前田 太朗 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (20581672)
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Keywords | 民法 |
Research Abstract |
本研究は、現在ヨーロッパの不法行為法の統一・調和において、企業責任がどのように把握され、位置付けられようとしているのかを紹介・分析するものである。本年度は、(1)EUレベルでは、Principles of European Tort Law、および(2)構成国レベルでは、スイス責任義務法準備草案(SVE)、オーストリア損害賠償法改正草案の分析・検討を、それぞれ行った。(1)について、企業責任規定は、SVE49a条に大きな影響を受けているものの、そのまま受容するのではなく、責任根拠を企業組織における瑕疵とし、その責任の正当化を試みていることが判明した。また(2)について、両国の改正提案における企業責任及びそれに関連する諸規定の分析・検討を行った。特にオーストリアでは現在まで活発な議論がなされており、関連文献の収集・翻訳・検討を逐次行った。とくにオーストリアは、企業責任の根拠を組織における瑕疵とし、その正当化原理の析出に配慮していた。(1)および(2)の作業を並行して行うことで、企業責任規定の明確化・正当化する原理が、報償、分業の危険、リスクの社会化、付保の可能性等であることが判明した。だが企業における「瑕疵」は、組織編成の瑕疵も被用者による不法行為も含んでいることが明らかとなった。特に後者は、日本法における使用者責任の規律領域と重なるものであり、あえて企業責任規定を設けて規律する必要性はないであろうが、スイス・オーストリアでは、この問題を企業責任の問題とする必要があったと推測される。企業における瑕疵とは、各国の法伝統に左右されるということを明らかにすることは、日本の企業責任を検討する上でも重要な視点であるため、スイス・オーストリアの法発展と改正提案への影響を明らかにすることが次年度の課題である。以上の点は、再分析をしたうえで、適宜公表する予定である。
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