2011 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパ不法行為法における企業責任の新たな帰責原理の比較法的研究
Project/Area Number |
22830097
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
前田 太朗 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (20581672)
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Keywords | 民法 / 過失責任 / 危険責任 / 企業責任 / ヨーロッパ不法行為法 |
Research Abstract |
本研究は、ヨーロッパの法の調和・統一という動きのなかで行われている不法行為法の統一・調和に関して、企業責任がどのように把握され、位置付けられようとしているのかを紹介・分析するものであった。昨年度は、EUレベル・構成国レベルの各草案の総論的な分析に重点を置いていたが、本年度は、構成国レベルにおいて示された改正案において示された各責任原理が、当該国での過失責任、危険責任、企業責任に関する法発展により、どのような影響を受けているのかを中心に分析・検討を行った。 スイス法においては、使用者責任規定(スイス債務法(以下OR)55条)が多機能な守護聖人として多くの事案の解決に用いられ、製造物責任でも同規定が用いられた法発展があった。つまり、使用者責任規定が企業責任を処理する役割を担っていた。ここでは、使用者責任は原因責任と解されていたが、動物保有者、工作物責任等も、同様に原因責任と解され、原因責任自体の理解が、現行法の解釈では不透明なものと考えられている。そこで、改正提案では、使用者責任規定の法発展を受けた、責任義務法改正草案49a条で、この規定の責任根拠を組織リスクにもとめ、この規定の独自性を鮮明にする立場に立った。 これに対しオーストリアの改正提案は、企業責任規定を、危険物質による加害、組織編成の瑕疵、被用者の不法行為の帰責等、きわめて射程の広い、受け皿的一般条項として構想されそれを過失責任としていた。この背景には、製造物等の企業責任が問題となる事案においては、不法行為法ではなく、契約法の拡張および危険責任の類推で処理してきた法発展の影響があり、そのため、企業責任を不法行為法で処理することにより生じる問題点(例えば過失責任の限界や代位責任を含めることで、被用者が被害者に対して個人で責任を負うというもの)が必ずしも、改正提案では意識されていないのではないかという可能性を示すに至った。
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