Research Abstract |
本研究課題の目的は,銀行の要求払い預金契約における次の問題の解決です:『銀行は,預金者による銀行取付を防ぎつつ,効率的な預金支払いをすることが可能か』。以下,簡略化のためこれを『問題P』と書きます。学術的には,問題Pの銀行取付は,「自己実現的予想に基づく取付」を指しています。私は,この問題Pを次の二つの場合にそれぞれ分けて考え,いずれも肯定的に解決できることを示しました。 第一の研究では,銀行と預金者がともに短期的にしか市場に存在しない場合を考えます。この状況は,先行研究であるDiamond and Dybvig(1983,以下「DD」と表記)が記述しています。DDモデルでは,銀行取付が均衡のひとつとして発生しうることが知られています。この取付均衡の存在は,銀行制度の脆弱性としてこれまで特筆されてきました。取付の本質は,本来預金引き出しを必要としない「非需要者」たちまでが預金を引き出してしまうところにあります。私は,そうした非需要者の一部が『引き出し回避の社会的選好』をもっていれば,銀行は支払い方法を工夫することで,問題Pを解決できることを示しました。 第二の研究では,預金者は短期的だが銀行は長期間存在する場合を考えます。具体的には,無限期間のOLG(Over Lapping Generation)モデルを想定しました。私は,問題PをOLGモデルによって適切に取り扱うべく,新たにモデルをつくることから始めました。本研究では社会的選好は仮定せず,繰り返しゲームと動的計画法の理論を用いて問題Pに取り組みました。結果,銀行間で時間を通じて預金を貸借しあうことで,ほぼ確率1で問題Pが解決されることを示しました。 以上二つの結果は,銀行制度はそれほど脆弱ではないという主張を導いています。これは今までにない新たな結論であり,学術的に意義ある成果であると考えられます。
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