Research Abstract |
「氷を蒸着したときの温度と,その氷が熱脱離したときのH_2O分子の原子核スピン温度の関係」を調べるために,真空チャンバー内のアルミ基板(8K)にH_2Oガスを蒸着させて氷を生成し,150Kまで昇温させ熱脱離したH_2O分子の原子核スピン温度を共鳴多光子イオン化法により測定した.結果として,原子核スピン温度は30-150K以上を示し,氷蒸着時の温度(8K)より高かった.また,紫外光を照射した場合や,常磁性体である0_2分子を試料氷に添加した場合などについても調べてみたが,結果に変化はみられなかった. 次に「化学反応により氷(固体H_2O)が生成したときの表面温度とその氷が熱脱離したときのH_2O分子の原子核スピン温度の関係」を調べるために,基板にCH_4:O_2混合ガスを蒸着させ,紫外光ランプを照射し光反応により基板上にH_2O分子を生成させた.このようにして低温表面上で生成したH_2O分子を熱脱離させて原子核スピン温度を測定する実験を行ったところ,原子核スピン温度はH_2Oガスを蒸着させたときと変わらず30-150K以上を示し,氷生成時の温度(8K)より高かった.彗星など氷でできた天体から熱脱離するH_2O分子の原子核スピン温度は,太陽系形成初期に氷が生成したときの塵表面温度を保存している「過去の温度計」であると提唱されているが,以上の結果は「原子核スピン温度は過去の温度計である」という天文観測研究にみられる前提に一石を投じるものである.このような結果が得られた原因として,オルソ・パラ変換反応が固相では分子間の相互作用により劇的に加速され,氷が150Kに昇温されるあいだに,H_2O分子の原子核スピン温度が高温へ変化した可能性が考えられる.この可能性を評価するためには,本研究で用いた昇温脱離法(熱平衡プロセス)ではなく,レーザー光照射などによる非熱平衡プロセスでH_2O分子を氷から脱離させ,原子核スピン温度を測定する必要があることがわかった.
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