Research Abstract |
BaTiO3の強誘電性やYBa2Cu307-dの超伝導に代表されるように,遷移金属酸化物はその豊かな物性で知られているが,それは陽イオンの豊富な組み合わせが可能なため,物性と密接な関係にある構造を細かく制御できることに起因している.一方,ハロゲン,窒素などの陰イオンによる制御に関する報告例は圧倒的に少なく,構造・物性両面で系統的な研究はまだ十分に行われていない.その理由として,1.陰イオンの高い蒸気圧性のため雰囲気制御が困難.2.陰イオンの原料(Cl2やNH3)の有毒性のため取扱いが難しく特別な装置を要する,の2点が挙げられる.本研究計画は,通常用いられる高温固相反応とは異なるアプローチを用いることによって,酸素を含めた陰イオン組成を効率的に制御した物質を創り出し,新規な機能物性を見出すことを目的とし行った. 申請者はすでに低温固相還元法を用いることによって鉄が平面4配位をもつ新規鉄酸化物SrFeO2の合成できることを奉公している.本研究では同手法をナノマテリアルの合成に応用できることを見出した.チタン酸化物はその酸素不定比性に応じて電気伝導性,光吸収特性が変化することで知られており,燃料電池の電極材料もしくは光触媒機能の観点から特に興味がもたれている.申請者は低温固相還元法によってルチル型TiO2ナノ粒子を還元したところ,Ti2O3(=TiO1.5)まで還元することに成功した.特筆すべき点としてTiO2とTi2O3の構造は大きく異なるのに関わらず,ナノ構造が維持されているという点である.その原因は両者の構造的特徴を併せ持ったTi407が中間相として存在していることにヒントがあるものと考えられるが,現在さらなる詳細を検討中である. 申請者は酸フッ化物にも注目し,テフロンポリマーを用いた低温フッ化法と高温高圧合成を用いることによって新しい層状酸フッ化物Sr3Fe2O5+xF2-x(x~0.44)とSr2CoO3Fの合成に初めて成功した.前者の物質の鉄イオンは5価と3価に不均一化した興味深い酸化数を持ち,一方,後者ではコバルトの正方ピラミッド配位と頂点位置を占有している0/F原子の無秩序状態の共存が類似物質で初めて見出されており,その起源に興味が持たれる.さらにSr2CoO3Fにおいて混合陰イオン系コバルト物質で初めての高圧誘起金属絶縁体転移が観測され,現在スピン状態,構造変化も含めた検討を行っている.
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