Research Abstract |
生鮮農産物は,凍結処理によって著しいダメージを受け,解凍後,その品質を低下させてしまう.そのため,凍結保存に変わる新しい長期保存技術の開発が望まれている.本研究では,新たな生鮮農産物の低温保存法としてガスハイドレート形成の利用を提案し,ガスハイドレートが農産物に与える影響を理解することを目的とする.本年度は,凍結保存と比較しながら,基礎として農産物におけるガスハイドレートの形成の観察を行った. 氷・ガスハイドレートの形成が,細胞構造へ与える影響をマイクロレベルで検討するため,凍結置換による組織切片の作成を試みた.農産物における置換条件は明確に示されていない.そのため,カールフィッシャー水分計(787KT Titrino,Metrohm)を用いて,組織内の水分と置換溶剤が置き換わるために必要な期間を測定した.その結果,-20℃で置換する場合,組織中の水分が置換溶剤(ケトン類)と置き換わるために,2週間もの期間が必要であることがわかった.しかし,置換が十分であっても,その後の工程において細胞構造が破壊されることを確認した.従って,置換過程だけでなく,置換後の操作に関しても農産物に適した手法を検討する必要があると考えられた. 次に保存中の組織内におけるガスハイドレートの形成過程を観察するため,ガスハイドレートの形成割合の変化を,パルスNMR(MU25A,JEOL)を用いたソリッドエコー法によって測定した.その結果,キセノン分圧0.8MPa,5℃で保存した場合,組織内の水の約50%しかガスハイドレートに変化しないことを確認した.また,その形成割合は,付加圧力を調整することで,人工的に制御できることを確認した.凍結保存において,氷の形成割合を制御することはできない.従って本結果より,組織内での形成割合を調整できるガスハイドレートは,結晶形成によるダメージを軽減できる可能性があることが示された.
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