Research Abstract |
生鮮農産物は,凍結処理によってダメージを受け,そのテクスチャーを著しく低下させる.そのため、凍結保存法に代わる新しい技術の提案が求められてきた.本研究では,組織のテクスチャーを保持しながら長期保存できる技術の確立を目的に,氷様結晶「ガスハイドレート」の利用を提案してきた.その基礎としてH22年度には,農産物組織におけるガスハイドレート形成の確認をX線回折測定,NMR測定より行った.これら結果を受けて,本年度は,ガスハイドレート形成・解離に伴う農産物組織のテクスチャー変化について測定を行った. レオメータを用いたテクスチャー測定の結果,ガスハイドレートの形成・解離によってタマネギ組織のテクスチャーは,凍結・解凍処理後の組織と比較して,生鮮組織に近いことが確認された.細胞膜に対するダメージは,ガスハイドレートの形成量に依存し,組織内の水が約35%ガスハイドレートを成すと,生鮮組織と比較して50%程度を低下することが示された.一方,細胞壁の力学的性質を示す破断強度においては,生鮮組織と比較して凍結・解凍処理後の組織は70%近く低下したのに対し,ガスハイドレート形成・解離後の組織では20%程度の低下にとどまっていた.同様の傾向は,ニンジン組織においても確認された.H22年度の研究において,ガスハイドレートの形成量は,保存時に使用する付加圧力を調整することで人工的に制御できることを確認してきた.従って,その形成量を人為的に調整することで,農産物組織のテクスチャー低下を抑えて保存できることが示されたと考えられる.以上のことより,ガスハイドレートを利用した保存法は,凍結保存法と比較して農産物のテクスチャー低下を抑制できる有効な長期保存法として利用できることが示された.
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