2011 Fiscal Year Annual Research Report
新規がん抑制因子CYLDの多彩な機能と新たな口腔癌治療法の開発
Project/Area Number |
22890146
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
神力 悟 熊本大学, 医学部附属病院, 特任助教 (00583048)
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Keywords | CYLD / 口腔扁平上皮癌 / 浸潤 / 上皮間葉移行(EMT) / TGFBR1 |
Research Abstract |
口腔扁平上皮癌(OSCC)の臨床組織を用いた免疫組織化学的検討により、正常上皮や上皮内癌とは対照的に、浸潤癌の浸潤部においてCYLDタンパク質の発現が著しく低下しており、それは臨床的に、腫瘍サイズの増大、血管新生の亢進、病期の進行、全生存率の低下と有意に関連していた。そこで、5種類のOSCC細胞株と非悪性HaCaT上皮細胞のCYLD発現を抑制したところ、全ての細胞株において間葉系質の獲得と運動能の亢進(EMT様変化)が認められた。これらの変化は、TGFβ受容体1(TGFBR1)の活性に依存していることが判明したが、TGFβリガンドには依存していないという知見が得られた。また、TGFBR1の下流で古典的シグナル伝達経路を担うSmad2、Smad3の発現を抑制したが、上記EMT様変化は阻害されなかった。さらなる検討の結果、通常TGFβ刺激で活性化されるTAK1の活性を阻害することで、EMT様変化は完全に遮断された。以上から、CYLD発現低下により誘導されるEMT様変化にはリガンド非依存的なTGFBR1活性化とそれに続くTAK1の活性化が少なくとも関連していると考えられた。 一方、上記のEMT様変化に伴い、CYLD発現低下は、抗がん剤シスプラチンに対する強い抵抗性を誘導することが明らかとなった。このような治療抵抗性で転移能が高いと考えられるCYLD低下細胞に対する有効な標的治療を開発するため各種検討を行ったところ、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤は、むしろCYLD発現抑制細胞に高度にアポトーシスを誘導することが判った。この結果は、上記のように高度な悪性形質を獲得したCYLD発現低下OSCC細胞においてEGFRはアキレス腱となっていることを示唆している。現在、欧米では本邦に先立ってEGFR標的治療がOSCC患者に応用されて有効性が確認されているが、患者選択の手段がないこと、効果が十分とはいえないということ、が問題となっている。 今後のさらなる詳細な分子機構の解析は、OSCCや他の癌の病態解明、新たな病態診断・治療法の開発の発展に貢献すると考えられる。
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