2022 Fiscal Year Annual Research Report
近現代ロシア思想における《異他性》の思考:思想史的遠近法の再構築をめざして
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22H00004
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
貝澤 哉 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30247267)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00298118)
鳥山 祐介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40466694)
北井 聡子 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 准教授 (40848727)
杉浦 秀一 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 名誉教授 (50196713)
兎内 勇津流 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 准教授 (50271672)
平松 潤奈 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (60600814)
下里 俊行 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (80262393)
坂庭 淳史 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80329044)
望月 哲男 中央学院大学, 現代教養学部, 教授 (90166330)
金山 浩司 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (90713181)
齋須 直人 名古屋外国語大学, 外国語学部, 講師 (80886292)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 思想史 / ロシア / 異他性 / 生 / 身体 / 他者論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、代表者、分担者による資料調査・研究と、その成果を総括し、全体的な課題の進展の確認のため、年2回の研究成果報告会・討議の機会を持ち、近現代ロシア思想における「異他性」の独自なあり方について、さまざまな時代の多様な角度から検討してきた。その結果、近現代ロシア思想史に関する以下のような新たな知見が明らかになった。 ①19世紀ロシアにおけるスピノザ受容の隠れた系譜が存在し、そうした流れが、その後のロシア思想の自然観、身体観に一定の影を落としていること。②19世紀ロシア文学における歴史理解のなかでは、経験的で多様かつ個別的、異質的なものと、法則的な構造との関係をどう捉えるかが大きな問題となっていたこと。③19世紀末から20世紀までのロシア法思想においては自然法が重視されただけでなく、西欧の市場的な法思想にとって異質のナショナルな自然法理解が目指されていたこと。④これまでロシア国民思想史のメインストリームと考えられていた、正教神学を背景とするロシア宗教思想の神秘主義的な全一性哲学にたいして、19世紀末ごろから、そうしたナショナルな哲学の探求に批判的な、新カント主義や解釈学、現象学などを背景とし、他者の問題を哲学的に論じようとした別の流れが出現していたこと。⑤19世紀末から20世紀にかけて、他者理解としての「感情移入」の問題が、心理学から文献学、歴史学、演劇等の芸術的実践の方法にいたるまで、大きな流れを形成していたこと。⑥ソヴィエト初期の芸術のなかで、ブルジョワ的で革命主義とは異質ともいえる貨幣の観念性のテーマや、「メロドラマ」のプロットが一定の役割をはたしていたこと。⑦ソヴィエト期における情報科学、とりわけサイバネティクスの持つ、物質とも観念とも違う独自の対象のあり方が、ソ連のマルクス主義的科学思想のなかで独自の異他的な役割を果たしているということ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2回の全体会合をおこない、各分担者による研究の進展と、新たな問題や論点の発見・提起が確認でき、今後の研究の展開に向けた方向性がある程度見えてきたと言える。とりわけ、19世紀の哲学思想や文学のなかに身体と観念、個的で多様なものと構造的なものとの独自の連関を探ろうとする流れが見えたこと、19世紀末から主流となり国民的思想とみなされているロシア宗教哲学思想の背後に、批判哲学的な異他的他者論や、感情移入理論のかなり大きな系譜が存在することが確認できたこと、またソヴィエトの思想・文化のなかでも異質な要素をさまざまに組み込む試みがなされていたことが明らかになってきたことによって、ロシア思想史を異他性の観点から再構成する手掛かりとなるものが広範囲に得られたことは、本研究課題にとっては大変重要である。また今年度はポーランドの研究者オボレーヴィチ氏を招き、充実した研究発表および意見交換をすることもできた。この意味で本年度の研究の進展はおおむね順調だったと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、今年度に獲得したいくつかの重要な視点をさらに深め、対象資料の読解・検討を進展させるとともに、新たな論点の発掘も続け、また、それらの論点や問題を綜合する思想史的パースペクティヴの構築を目指し、全体会合での討論と総括を重ねていきたい。 また例年通り、海外での資料調査、海外および国内学会での成果発表、内外の学術雑誌等への投稿も続けていく。 可能であれば、海外の専門家を招いて研究発表や意見交換を行って、研究の国際的連携も図っていく。 最終年度に向けて、成果論集の刊行を準備するため、論集の企画についても同時に進行していく。
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