2022 Fiscal Year Annual Research Report
超高速分子イメージングに向けたレーザートンネル電子分光法の構築
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22H00313
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
菱川 明栄 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (50262100)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森下 亨 電気通信大学, 量子科学研究センター, 教授 (20313405)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | トンネルイオン化 / 強レーザー場 / 分子軌道 / 光電子運動量分布 / 電子ーイオンコインシデンス計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
強レーザー場によって歪められた束縛ポテンシャルを電子がトンネル透過するトンネルイオン化は,標的原子分子のイオン化軌道の特徴を反映することから,化学反応過程における電子ダイナミクスを探る手段として期待されている。ここでは,円偏光レーザー場において生成した放出電子の運動量分布にトンネルイオン化過程の特徴が現れることに着目し,その3次元運動量のイオンコインシデンス画像計測を行った。イオン化軌道の違いがトンネル電子運動量分布に与える効果について明らかにするため,同程度のイオン化ポテンシャル(Ar: 15.8 eV,H2: 15.4 eV)をもつAr(3p)およびH2(1sσg)を対象とした実験を行った。同じレーザー場強度条件のもとで比較するために混合気体を用い,電子-イオンコインシデンス計測法によってAr+またはH2+と同時に検出された光電子の運動量分布をそれぞれ計測した。また位置敏感型検出器の校正を行うことで,精密な運動量計測を実現した。ArおよびH2とも円偏光面に沿った明瞭なトーラス(ドーナツ)状の分布を示したが,トーラス主半径およびトーラス断面に現れる垂直運動量分布の幅には明瞭な差が見出された。高強度場近似(SFA)に基づく理論計算を用いてp軌道およびs軌道からイオン化した光電子の運動量分布を計算したところ,実験結果と同程度の差が得られた。これから実験で観測されたArとH2の光電子分布の違いは価電子軌道がもつ特徴の違い,特に軌道角運動量に起因していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
円偏光レーザー場における水素分子およびAr原子からのトンネル電子の運動量分布を高い高精度3次元計測し,トンネル電子の垂直運動にもとづいてその軌道の特徴を明らかにできた。また,フェムト秒パラメトリック増幅器(OPA)の立ち上げおよび光電子運動量分布計測を実施し,波長効果についても予備な結果を得ている。他の分子種についての研究も進め,高繰り返しレーザーを用いてトンネルイオン化と分子解離を分離した計測法の開拓に着手するなど,実施計画に沿った形で研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で明らかになったArとH2における分子軌道効果について,新たに導入したパラメトリック増幅器(OPA)によりレーザー波長を系統的に変化させた検証をおこなう。特にトンネルイオン化条件を満たす赤外領域(1-3 μm)における光電子分布の計測を進め,分子座標系角度分布および垂直運動量分布をもとにトンネルイオン化理論との定量的比較を行い,非断熱効果について明らかにする。また補助解離パルスを用いてイオン化と分子解離を分離する手法についてより詳細な検討を進め,多原子分子への応用に取り組む。
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