2022 Fiscal Year Annual Research Report
The dynamics and regulatory mechanisms for heat-induced rice spikelet sterility using on-site single cell metabolomics
Project/Area Number |
22H00369
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
和田 博史 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (40533146)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 卓哉 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (10363326)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 高温不稔 / 水稲 / 水分生理 / 受粉 / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,地球温暖化に伴う開花期の気温上昇により,イネを始めとする作物で高温不稔(不受精)が多発し,作物収量の不安定化が顕在化している.水稲安定生産システムの構築に向け,高温不稔の機構解明と高次高温耐性をもつ品種育成は喫緊の課題であるが,イネの受粉プロセスは依然として未解明のままである.本研究では,研究代表者らが観察により見出した一般に認知されていないイネ科作物特有の受粉様式とその高温応答を解明する. 従来,高温不稔の主因の一つとして,雌蕊上に付着する花粉粒数の低下が指摘されてきた.しかし,高温感受性品種・高温耐性品種を対象にしたこれまでの解析から,雌蕊上の着床花粉粒数が低下しない場合にも稔実率が顕著に低下する事例が認められている.研究代表者らはこの点に注目し,イネの受粉プロセスを詳細に観察するとともに,独自開発した1花粉粒を対象に代謝産物同定が可能なピコリットル・プレッシャープローブ・エレクトロスプレーイオン化質量分析法(picoPPESI-MS)を駆使して,開花期のイネの葯裂開直前の葯中の1花粉粒と1雌蕊細胞を対象に代謝マッピングを行った.また,雌蕊上の着床花粉粒数をカウントするとともに,受粉後の花粉粒の体積変化を撮影,解析した.その結果,フット構造形成前に花粉粒表面からイネ科植物特有のナノリットルスケールの溢液浸潤が起こることを再確認した.この溢液についても,picoPPESI-MSを用いて代謝産物分析を試み,溢液の組成分析を成功させている.また,高等植物の受精研究で頻繁に用いられてきたモデル植物のシロイヌナズナを対照植物として,その受粉プロセスと比較したところ,イネではシロイヌナズナとは全く異なる受粉プロセスを経ることが明らかとなり,受粉直後に起こる溢液浸潤現象の生理学的な重要性を再確認するに至っている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノリットルスケールのイネ科植物特有の溢液浸潤現象を再確認するとともに,その超微量溶液を採取しての代謝産物分析を成功させた.代謝プロファイリングから,受粉時のイネの各花器官において細胞溶液の組成が全く異なっており,受粉に関連して部位特異的な代謝応答が起こっていることが強く示唆された.また,対照植物としてモデル植物であるシロイヌナズナを用いて同じ手法で解析したところ,イネではシロイヌナズナとは全く異なる受粉プロセスを経ることが示唆された.シロイヌナズナの受粉の解析過程で行った分析手法の改良から,新たな手法を確立したため,特許出願を行った.
|
Strategy for Future Research Activity |
イネ1花粉粒,受粉直後に現れる溢液,雌蕊細胞における代謝分子同定を完了させる.高温感受性品種及び高温耐性品種を供試して,高温不稔を誘導する恒温環境下で処理した植物体の雄蕊から採取した成熟花粉を,適温下の小穂中の雌蕊に人工受粉させたときの花粉粒由来の溢液の組成変化,花粉粒の体積変化を調査することで,溢液の成分と高温耐性との関連性を考察する.さらに,イネとシロイヌナズナの受粉プロセスの相違を水分生理学的かつ細胞生理学的な視点から考察する.
|