2022 Fiscal Year Annual Research Report
Circuitry and behavioral decisions in the mouse olfactory system
Project/Area Number |
22H00433
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
坂野 仁 福井大学, 学術研究院医学系部門, 特命教授 (90262154)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 匂い情報処理 / 情動・行動判断 / 本能回路 / 学習回路 / 臨界期 / 刷り込み / 扁桃体 / 価値付け領野 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトではこれ迄、嗅覚情報が受容された後の価値付け及び情動・行動の出力判断に焦点を当てて研究を行なってきた。その結果、嗅覚情報は本能回路と学習回路の2つの独立した神経回路によって、それぞれ先天的な判断と記憶・経験に基く判断が独立して下される事が明らかとなった。本能判断に関しては、一次投射を介して嗅球上の機能ドメインに仕分けられた匂いのシグナルが、直接扁桃体の価値付け領野に配信される事で匂いの質感が判断され、それによって誘導される神経調節物質 (neuro-modulators) によって情感が決まり、出力行動が発動されるという、匂い情報の入力から出力迄の大筋が見えてきた。 一方、記憶に基く学習判断に関しては、嗅球上に糸球体の発火パターンとして展開される匂い地図 (odor map) が梨状皮質で識別され、それをいはばQRコードとして、以前その匂いに連関していた情景シーンが呼び起こされる事が明らかになってきた。この記憶経験に基く判断では、その匂いが前回好ましいものであったか、忌避すべきものであったかによって、以前と同じ価値付け回路が活性化され、情動・行動の出力判断の下される事が見えてきた。 当グループでは更に、上記2つの判断の間を埋める第3のストラテジーとして、匂い入力依存的に生じる臨界期における刷り込みについて解析してきた。これは新生仔期に入力した匂い情報によって、その匂いの先天的な質感が誘引的に変更される神経活動依存的な回路修飾で、当グループではこれが嗅球内の糸球体で生じるシナプス強化によるものである事を明らかにし、そのシグナル分子と価値付けに関わる分子の同定を行なった。 本研究では、大体の枠組みの見えてきた上記3つのプロセスに関して、更にその分子基盤を固めるべく実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当グループではこれ迄、外界から入力してくる外的匂いの情報処理について研究してきた。最近他の五感についても研究が進み、体内から発せられる内的情報について関心が高まっている。嗅覚系においても、口に入れて咀嚼した食べ物の匂いや、口に含んだワインの香り、更には体の不調を示す体内からの匂いなど、内的情報の研究が進んでいる。嗅覚系では、匂い情報を画像展開する糸球体マップが左右の嗅球に一対存在する。ところが、これら左右のマップは更に外側マップと内側マップの2つの対称的なマップに重複している為、匂い地図は計4個形成される事になる。この内・外の重複マップの意味については長年議論されてきたものの、実際の機能分担については不明であった。当グループではこれ迄の生理学的データを基に、森憲作博士(東大名誉教授・生理学)と共同で、内側マップが内的な匂い情報を、外側マップが匂いの外的環境情報を、それぞれ呼吸サイクルの呼期と吸期に連動させて、別々に処理しているとの仮説を提出し、それを検証する研究を進めている。 また、本能回路と学習回路に関しては、それぞれを担当する二次神経、僧帽細胞と房飾細胞が、呼期と吸期に分かれて活性化する事から、先天的な判断と記憶に基く価値判断の呼吸サイクルに合わせた制御についても研究を開始した (Mori and Sakano, Front. Neural Circuit, 2022: Front. Behav. Neurosci., 2022)。 更に刷り込み現象に関しては、これまで特定の匂いに対する価値付け変更について研究を進めてきたが、最近これとは別に、外界入力に対しての価値判断にグローバルな閾値の初期設定が、新生仔期に起こる事を見出した (Katori et al., 投稿準備中)。 以上の様に本研究は、当初の計画通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
記憶に基く学習判断については、匂いの識別が嗅球上に展開される匂い地図(活性化される糸球体の活性化パターン)が、その相対的なトポグラフィーを保存したままAON(前嗅覚核)に伝えられる事が知られている。この二次元情報の伝達にかかわる房飾細胞の軸索投射に、どの様な軸索誘導分子が関与しているのかについて、背腹軸と前後軸に分けて解析する。 次に、外側及び内側の重複マップの異なる役割 (differential usage) については、それぞれの活性化が呼吸サイクルに連動しているかを電気生理学的な手法を用いて検証する。 新生仔期に生じる匂いの環境入力によるグローバルな初期閾値設定については、単一糸球の光遺伝学的な活性化システムを用いて、刷り込みに必要な入力ドースや頻度、匂いの種類について明らかにする。また、これに関与するシグナル分子や、可塑的な回路変化についても解析を進める。
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Research Products
(10 results)