Research Project
本研究では,長期に亘って取得した高齢者のパーソナルヒストリー生体・行動データから,(1)高齢者の身体認知機能をADL(日常生活動作)として評価しながら,(2)マットセンサを敷いた布団やベッドに寝るだけで得られる心拍から継続的に認知症の兆候を推定し,(3)長期リハビリに向けた個人の内発的動機づけによって自身の身体認知機能の低下を抑制する3つの手法を探究するとともに,それらを統合した認知症兆候検知・進行予防支援システムの有効性を介護施設や病院にて検証することを目的としている.その目的達成に向けて,令和4年度では次のような研究を実施した.(1)ADLの中でも基本的ADLより認知機能を伴う手段的ADL(高次の買い物/料理/服薬管理など多くの種類と順番を伴う動作)に焦点をあて,記憶や理解などの認知ADLを評価する手法を考案した.(2)認知症者のメラトニン分泌量のサーカディアンリズム(約24時間周期の生体リズム)は乱れることから,心拍のサーカディアンリズムも乱れると仮定し,その乱れ度合いから認知症を判定する方法を考案した.(3)内発的動機づけとして自己学習に着目し,学習の際の「称賛」と「叱責」それぞれの影響を分析し,内発的動機の効果がより得られる組み合わせ方法を探究した.学会活動としては,生体工学分野のIEEE EMBC2022で本研究の成果を発表するとともに,人工知能分野のAAAI 2023 Spring Symposiumにて“Socially Responsible AI for Well-being”というシンポジウムのプロポーザルが採択され,研究発表を通して,多くの研究者と本研究テーマに関して討論した.さらに,スタンフォード大学(米国)の医師ともディスカッションし,医学的な助言を受けた.
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
本年度は,介護施設における新型コロナウイルスの感染拡大による影響で,予定していた被験者実験が延期となったため,過去の被験者実験のデータを用いた分析や介護施設外での被験者実験(主に学生を対象)を実施するとともに,次年度の実験で用いるロボットを前倒して開発した.その結果,次のような成果が得られたため,おおむね順調に進んでいる.具体的には,(1)ADLからの身体認知機能の判定に関しては,機械学習(特に深層学習)だけでは「未知データに対する判定結果の不信頼性」と「環境変化(部屋やセンサ設定の違い等)に対する脆弱性」という問題があるため,オントロジーに基づく推論機構の導入によって,これらの問題を緩和するとともに,機械学習の結果を意味的文脈で解釈することを可能にした.また,次年度に向けて,認知症者との会話を通して認知症判定をする対話ロボットWANCOの開発に着手した.このロボットは,医療現場の認知症診断に用いられるHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)に基づいた質問をするように設計され,医師と同レベルの判定結果が得られた.(2)マットセンサから得られる心拍数を用いた認知症判定に関しては,心拍における24時間前後の周期の波を最尤推定によって三角関数で近似し,推定した波のフーリエ係数の符号をリズムの乱れ度合いとして活用することによって,8割弱の感度(認知症者を正しく認知症者と判定できる確率)を達成した.医学的には,認知症判定のために数分ごとのメラトニンを測ることは非現実的であるが,就寝中の心拍は数分ごとに測ることは容易であるため,提案手法の意義は極めて高い.(3)内発的動機づけに関しては,称賛(自己有能感を高めること)のみの繰り返しは馴化により,内発的動機づけは抑制されるのに対して,称賛と叱責を組み合わせると内発的動機づけは促進傾向に変わり,自己学習が促されることが分かった.
今後の研究としては,申請書に記載された計画を進めることを基本とする.ただ,本年度予定していた被験者実験が延期となったため,来年度は介護施設での被験者実験を実施し,本年度得られた結果と同等の結果が得られるかもあわせて分析する.以下,個別の推進方策をまとめる.具体的には,(1) ADLからの認知症判定に関しては,HDS-Rに基づいて質問するシナリオを実装した対話ロボットを介護施設内に設置して,認知症判定とユーザインタフェースの2つの観点から有効性の評価を行う.また,雑談シナリオ,お話朗読シナリオなど複数のシナリオを柔軟に切り替えられるように対話ロボットの機能拡張を図ることで,継続的な利用を促進する.さらに,音声以外に画像入出力も含めたマルチモーダルなインタフェースを拡張することによって,常時見守りによる長期間の認知機能の評価を可能にする.(2)心拍数に基づく認知症判定に関しては,約24時間の心拍のリズムという長い期間の乱れ具合いに着目したが,睡眠時間が短いと正しく心拍のサーカディアンリズムを推定できずに誤判定する可能性があることから,来年度は10~90分程度という短い期間の心拍数の乱れ具合い着目した判定方法を考案し,睡眠時間が短くても誤判定をする可能性を低減することを目指す.(3)内発的動機づけに関しては,自己学習における称賛と叱責の影響を分析したが,リハビリへの動機ではないため,介護施設における高齢者を対象にリハビリへの称賛と叱責の分析方法を検討する.また,称賛と叱責以外の内発的動機づけとして,長期間に亘り高齢者にWearable健康機器を身に着けてもらい,その期間に得られた歩行や睡眠の結果表示(グラフや数値,言語表示)の理解度や受容性を分析するとともに,動機付けへの展開につなげる.
All 2023 2022 Other
All Int'l Joint Research (1 results) Journal Article (7 results) (of which Peer Reviewed: 7 results, Open Access: 5 results) Presentation (23 results) (of which Int'l Joint Research: 9 results) Patent(Industrial Property Rights) (2 results) Funded Workshop (1 results)
Neurology and Clinical Neuroscience
Volume: 11 Pages: 152~163
10.1111/ncn3.12709
International Journal of Environmental Research and Public Health
Volume: 20 Pages: 3543~3543
10.3390/ijerph20043543
Neurology International
Volume: 14 Pages: 727~737
10.3390/neurolint14030061
Journal of Medical Virology
Volume: 94 Pages: 3416~3420
10.1002/jmv.27689
BMJ Case Reports
Volume: 15 Pages: e252839~e252839
10.1136/bcr-2022-252839
日本病院総合診療医学会雑誌
Volume: 18 Pages: 332~339
Volume: 18 Pages: 445~447