2022 Fiscal Year Annual Research Report
ナノサイズの不均質構造に着目した,単一エアロゾルと気相分子の相互作用計測実験
Project/Area Number |
22H03721
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石塚 紳之介 名古屋大学, 高等研究院(宇宙), 特任助教 (20817788)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 微小不均質 / 光感応剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
大気中の有機分子は光化学反応によって酸化し,エアロゾルの生成,成長,変質に寄与すると考えられている.近年,エアロゾル中や海洋表面などに広く存在すると考えられている有機物層 (マイクロレイヤー)内部での光化学反応においては反応物の直接的な光励起が難しく,光感応剤が必要となることが指摘されている.しかし,どのような物質が光感応剤として働くのか明らかになっていない.申請者は,光ピンセットを用いてアミノ酸の一種であるグリシンの水滴を捕捉し,その体積変化と捕捉光強度の関係を調べ,本来グリシン水溶液が吸収帯を持たない捕捉光 (532 nm) との相互作用によって,水滴の体積が減少していることを明らかにした.また,光散乱強度パターンの変化から,液滴内部で液液相分離が起こっていることを示した.グリシン水溶液に生じる,微小不均質構造は532 nmに対して吸収を持つことが,先行研究によって示されており,本研究では液液相分離によって生じた微小不均質構造が光感応剤として働くことで,本来不活性なグリシンの光化学反応が起こったと考えられる.微小不均質構造が光感応剤として働くことを提案した初めての研究である.微小不均質構造は糖などの様々な水溶液中に普遍的に観察され,エアロゾルやマイクロレイヤー中での光化学反応をコントロールしている可能性があるとして,新たな光化学反応経路として提案した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
微小不均質構造が光感応剤として働くという結果は予想を超える発見であり,地球大気中で普遍的に起こり得る現象であると考えられるため当初の期待以上の発展が期待される.しかし,研究代表者ががんに罹患したため,プロジェクト半ばで帰国となり,また8か月間の入院となったため,期待通りの発展的研究が行えていない.そのためおおむね順調とした.
|
Strategy for Future Research Activity |
微小不均質構造が光感応剤として働くことの普遍性を物質を変えて調べる.例えば界面活性度が異なるアラニンやバリンとの比較を行うことや,微小不均質構造が生成されることが明らかになっている糖の水滴の体積減少のメカニズムを調べることで現象の普遍性を調べる必要がある.また,微小不均質構造の生成メカニズムを透過型電子顕微鏡を用いて明らかにすることができれば,本現象の物理化学的な起源や,大気モデルにおける定量的な扱いに大きく近づくことができる.
|