2022 Fiscal Year Annual Research Report
TOF-SIMSによる有機分子の効率的イオン化を目指した前処理法の開発
Project/Area Number |
22H04248
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宍戸 理恵 東北大学, 多元物質科学研究所, 技術職員
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | TOF-SIMS / マトリックス効果 / 感度向上 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機分子の可視化技術は、癌や感染症を調べるための病理診断に利用されている。TOF-SIMSは、微小領域に存在する有機分子を高感度に分析することのできる手法である。しかしながら、質量の大きな分子は、イオン化しにくいという難点がある。目的分子の明瞭な分布情報を得るためには、その感度を如何に向上させるかが重要である。 有機分子は、プロトンを付加したかたちでイオン化することが多い。このことから、分析対象の感度を向上させる前処理法として、プロトンを付与しやすい酸を分析対象と混合させる手法が古くから確立されてきた。しかしながら、複数の有機分子の混在下における酸添加の効果についての検討は十分に行われていない。そこで、本研究では、生体内と同様、感度の高い分子と低い分子の混在下における、個々の有機分子のプロトン親和性の度合いを調査した。さらに、それぞれの分子の感度が最も向上する条件を探索した。 評価分子には、検出感度の高いアルギニンと、その感度が低いDPPCおよびDSPCを選定した。まず、アルギニンとDPPCを異なる濃度比で混合し、それぞれの感度変化を調べた。さらにアルギニンとDPPC、DPPCとDSPCを、それぞれ同等の濃度比で混合した試料に、プロトン供給性の高い酸を添加することで、複数の分子の存在下におけるプロトン親和性の度合いを調査した。 アルギニンのイオン化がDPPCにより抑制されることがわかった。また、酸添加による感度向上の度合もアルギニンと比べてDPPC、DPSCの方が大きいことが明らかとなった。一方で、それぞれの感度が最大値を示す酸の添加濃度は同等の値であった。本研究により、有機分子そのものの検出感度と複数の分子の混在化下において得られる感度には、相関がないことが明らかとなった。よって、この成果は、生体切片表面の有機分子の濃度分布評価へと展開できるものと考えられる。
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