2022 Fiscal Year Annual Research Report
電子線およびラジカルの粒子輸送シミュレーションによるDNA二本鎖切断誘導の解明
Project/Area Number |
22H04437
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉井 勇治 北海道大学, アイソトープ総合センター, 技術専門職員
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | DNA損傷 / モンテカルロシミュレーション / ラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線の電離作用により体内で発生した二次電子(電子線)は、1keV以下の運動エネルギーが低下するとspurやblobと呼ばれる電離や励起が密集した微小領域(数~十ナノメートル)を形成する。DNA損傷の発生機序は、放射線自身がDNAを損傷する直接作用と、生体内水分子を電離・励起することにより生成したラジカルを経てDNA損傷を誘発する間接作用に分けられ、直接作用によるDNA二本鎖切断は電子線の飛跡の電離密度が高い領域で発生しやすいことが示されているが、二次電子の飛跡構造と間接作用によるDNA二本鎖切断の関係に関する研究は不十分である。本研究はMonte Carlo法による粒子輸送計算(以下、「MC計算」)により二次電子の飛跡構造が間接作用に及ぼす影響を明らかにすることが目的である。 【研究方法】 一次放射線・二次電子のMC計算は汎用Monte CarloコードParticle and Heavy Ion Transport code System(以下PHITS)を用いて行った。細胞照射実験の放射線の線質・エネルギー、幾何学的条件を模擬した条件で計算を行い、二次電子による電離・励起の発生位置や付与エネルギーの情報からラジカルの種類と位置を決定した。ラジカルの拡散に関するMC計算アルゴリズムはstep by step法を採用し、間接作用の影響を評価した。 【研究成果】 電子線によって発生するDNA二本鎖切断は、ヒドロキシラジカル発生から1ナノ秒までに発生する割合が多く、それ以降に発生するDNA損傷はDNA一本鎖切断が中心であった。ヒドロキシラジカルが1ナノ秒で拡散する平均距離は約4 nmであることから、間接作用に由来するDNA二本鎖切断の発生位置は電子線の飛跡構造とDNA構造が隣接するときに誘導されることが示された。
|