2023 Fiscal Year Research-status Report
The naturalization and civilization of social norm based on Aristotle's biology
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22K00019
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
稲村 一隆 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (40726965)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | アリストテレス / 倫理 / 方法 / 分類 / フェミニズム / 機能主義 / 分業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はアリストテレスの生物学の視点を社会規範の説明に利用する際の意義と問題点について検討することである。本年度は主に以下の二つの作業を行なった。
第一に、アリストテレスがプラトンの分割の技法を倫理学の方法論でどのように利用しているのかを考察した。プラトンの分割の技法は、生物種の分類の技法との関連が推測されてきたが、アリストテレスはプラトンの技法を批判している箇所もあり、それをどのように受容しているのかは謎となってきた。本研究はアリストテレスの『エウデモス倫理学』の一節に着目し、分割の技法は多様な種類の分類というよりも、一つの概念の明晰化のために利用していることを明らかにした。これにより、倫理の内容の面だけでなく、分析の手法の面においても、アリストテレスの倫理学は生物学の議論から一定の影響を受けていることが判明した。この点については研究論文がCambridge Classical Journalに掲載された。
第二に、アリストテレスの生物的な見解はフェミニズムから批判されているので、その点の妥当性を検証した。スーザン・オーキンらのフェミニストは、アリストテレスが男女の分業を擁護し、女性を家父長的な社会の道具として理解していると批判してきた。従来のアリストテレス研究の世界では、こうした保守的な見解は古代ギリシアの社会を反映したものにすぎず、アリストテレスの哲学とは関係がないとされてきた。これに対し本研究は、アリストテレスが文明の発展の基礎として社会分業を擁護しており、また生物的な特徴も踏まえて倫理的要求を定めているため、保守的な倫理観が提示されていることを明らかにした。これにより、フェミニズムの観点からでもいくぶんかはアリストテレスを理解できるように背景を明らかにした。この点は2024年の政治思想学会で発表することになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に基づいて、英語論文を一つ公表し、国際的な学会報告も一つ行い、次年度に向けて研究成果の公表に努めているため。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き研究計画に基づいて作業を進める。論文の執筆と学会報告を行うが、本研究の最終目標である単著の本の出版を常に意識して研究を進める。研究成果がすぐに公表されないものであっても粘り強く地味な作業に取り組む所存である。
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Causes of Carryover |
国際学会での発表が1件で、想定よりも旅費が掛からなかったため。次年度の国際学会での発表などの費用に使用する計画である。
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