2022 Fiscal Year Research-status Report
日本・英米との比較から見たフランス現代哲学の主体・人格概念(愛・性・家族を軸に)
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22K00022
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
藤田 尚志 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (80552207)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | フランス近現代哲学 / 主体性 / 人格性 / 愛 / 性 / 家族 / かゆみ |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクトの一年目となる今年度は、ベルクソンに関する単著1冊と共著2冊(日・英語で1冊ずつ)、論文2本(日・英語で1本ずつ)を上梓し、講義録を1冊翻訳することで、主体性・人格性に関する議論を一定程度前進させることができた。一方では、大陸哲学を代表するハイデガーやカントの図式論理解との対比を通じて、人格を「脱自 Ek-sistenz」ではなく「響存 echo-sistence」として捉えるとともに、他方では、英米系の分析哲学者であるデレク・パーフィットやバリー・デイントンの意識理解との対比を通じて、人格を「表現的」なものとして捉えるベルクソンの方向性がより鮮明になってきたと言えるだろう。ベルクソンに関しては、現代の心理学者たちとの共同作業などを通じて、フェヒナーの精神物理学やカンギレムとの器官学との対決に関する再検討が継続中であることも付け加えておきたい。 他方で、愛・性・家族の領域における主体性・人格性に関する探究も継続的に深化している。今年度の口頭発表は7つ行なったが、そこでは18世紀のフランス文学者レチフ・ド・ラ・ブルトンヌや19世紀の思想家フーリエに関する発表も行なった(前者は仏語)。 最後に、新たな方向性として、主体性・人格性の核に触れるものとして「かゆみの哲学」に関する論文を発表した。最も注目したのは、掻くという行為の自己防御的/自己破壊的な側面である。まずアンジューの「皮膚=自我」概念から出発し、その限界を際立たせるものとしてドゥルーズの「分人」概念を対置し、次に哲学的触覚論の現代的展開を概観し、伊藤の「一人の人の中の多様性」、デリダ(とナンシー)の「エコテクニー」を取り上げた。後半では、「苦痛」に対して忘れ去られがちな「かゆみ」について言語的・文学史的観点から考察し、アトピー性皮膚炎に関する現代の皮膚科学的知見を紹介することで、触覚の哲学への貢献を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①藤田尚志『ベルクソン 反時代的哲学』、勁草書房、2022年6月1日。②藤田尚志「講義の時間:ベルクソンのコレージュ・ド・フランス講義録を読む」、『フランス哲学・思想研究』第27号、2022年09月、3-20頁(シンポジウム依頼論文)。③檜垣立哉・平井靖史・平賀裕貴・藤田尚志・米田翼『ベルクソン思想の現在』、書肆侃侃房、12月23日。④平芳幸浩編『現代の皮膚感覚をさぐる――言語、表象、身体』、春風社、2023年3月23日。共著、担当部分:第1章「かゆみの哲学断章――哲学的触覚論のゆくえ」。⑤Yasushi Hirai (ed.), Bergson's Scientific Metaphysics: Matter and Memory Today, London: Bloomsbury Publishing.5月刊行予定。⑥アンリ・ベルクソン『1903‐1904年度コレージュ・ド・フランス講義 記憶理論の歴史』(平井靖史ほかとの共訳)、書肆心水より夏ごろ刊行予定。⑦藤田尚志「Sublime and Panoramic Vision: Bergson, Kant and Heidegger on Schematism」、『Bergsoniana』第3号、2023年中に刊行予定(査読有、掲載決定)。
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Strategy for Future Research Activity |
従来の研究方針を維持する。 1)ベルクソンを中心にフランス現代哲学における人格性・主体性についての研究を深めていく。その際、一方ではカントやハイデガーなどの大陸哲学、他方ではパーフィットやデイントンなどの英米系の分析哲学との接続を試み、異なる伝統間の対話を模索していきたい。 2)18世紀のフランス文学者レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ、19世紀の思想家シャルル・フーリエなど、「個人 individual」を下支えする「分人 dividual」概念を思考した先駆者の系譜を遡る作業も継続して行なっていきたい。 3)人格性の核を脅かすものとしての「かゆみ」についての哲学的探究も深化させていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により予定していた出張等が行なえなかったため。
今年度はその出張計画を実施し、それに必要な書籍の購入に充てる。
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Research Products
(14 results)