2023 Fiscal Year Research-status Report
実践的な徳倫理学理論の構築:クリスティン・スワントンを手がかりに
Project/Area Number |
22K00023
|
Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
林 誓雄 福岡大学, 人文学部, 准教授 (20736623)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | クリスティン・スワントン / 多元主義 / エウダイモニア主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究計画に沿い,②スワントンの多元主義と「他の徳倫理学理論との比較検討」を実施した。とりわけ,今回その比較の相手として俎上にあげたのは「プロネーシスによる徳の統括」を掲げるエウダイモニア主義(アリストテレス流の徳倫理学:ロザリンド・ハーストハウス)である。徳倫理学の代表的な理論の最先鋒であるエウダイモニア主義には,これまで数多くの批判が,他の徳倫理学理論から寄せられてきた。そこでまずは,エウダイモニア主義に長らく向けられてきた「利己主義/自己中心的」という批判に,エウダイモニア主義がどこまで耐えられるのかを,先行研究を踏まえながら検討した。 次に,この「利己主義/自己中心的」という批判に関連して,申請者は独自に,エウダイモニア主義にとっての最重要な論点の一つである「徳」と「幸福」との関係に注目し,「悲劇」の考察を踏まえながら,「悲劇」の場面においてエウダイモニア主義は,重大な欠陥を抱えることになることを指摘した。その上で,上述のエウダイモニア主義に向けられる諸批判には,スワントンの多元主義であれば応答が可能であることを示したが,しかし他方でスワントンの多元主義が,多元的で直接的な徳理解を前提としているために,もはや「徳」倫理学/理論としての位置付けに揺らぎが生じてしまうのではないか,ということも,あわせて指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,研究計画に記載しているうちの,2年目に実施すべき課題である②「他の徳倫理学理論との比較検討」を,とりわけ2-1「相対主義的な限界の問題」とあわせて考察することができ,それについての発表・論文公表も実施できた。そのため,本研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は,順調に計画を消化しているため,今後は研究計画に記載の通り,スワントンの多元主義と他の主義をあわせて,2-2「差別・格付けの正当化問題」にどのように応じることができるのか,検討する。そのためにはまず,そもそも「差別・格付けの正当化問題」とはどのような問題であるのかを,詳細に分析した上で,そこで指摘される徳倫理学に対する批判の論点を析出し,それぞれの徳倫理学の主義主張が,それぞれどのように応じうるのかを考察する。あわせて,多元主義と他の主義とで,いずれの理論が最も先の批判に有効に応じているのかを,検討する。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,設備品と消耗品については,購入すべきものが少なかったために発注を控えていたためであり,旅費については,都合により当初予定していた学会・研究会に申請者自身が頻繁に行くことができなかったためである。 次年度からは,購入すべき資料をより積極的に調査し,発注することを心掛け,また各種学会・研究会へ積極的に参加することによって予算を消化し,より幅広く多角的な調査を実施できるよう努める所存である。
|
-
-
-
[Book] 倫理学2023
Author(s)
神崎宣次, 佐藤靜, 寺本剛, 林誓雄, 他
Total Pages
256
Publisher
昭和堂
ISBN
9784812222188