2022 Fiscal Year Research-status Report
A comparative study of Hume's and Kant's theories of causation, conducted by reference to Suarez's theory of causation
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22K00029
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
秋元 ひろと 三重大学, 教育学部, 教授 (80242923)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | カント / 因果論 / 形而上学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,スアレスにその集大成が見出されるスコラの因果論を参照してヒュームとカントの因果論を比較検討し,両者の哲学史的位置づけと意義の見直しを行うことである。 研究1年目である令和4年度は,前批判期カントの因果論の概要を,関連諸著作(『形而上学的認識の第一原理の新解明』『感性界と知性界の形式と原理』『負量の概念』など)に即して明らかにする作業を中心に研究を進め,つぎのような研究成果を得た。 前批判期のカントは,ライプニッツの予定調和説を退けて,有限実体が因果的に相互作用することは認める。ただしそうした因果的相互作用は,有限の存在者のレヴェルにおいて完結している事態ではなく,被造物である有限実体が創造主である神に依存することにおいてはじめて成立している事態だとする。このような神中心の形而上学を唱える点で前批判期のカントは一貫しており,因果論も,そうした形而上学と一体のものとして展開されている。そして因果性を形而上学の事柄として論じる点で,カントは,スコラの形而上学的な因果論の伝統を受け継いでいる。 ただ1760年代のはじめに,ある重要な変化が生じている。それはカントがそのような形而上学の可能性について疑問をもち始めたことである。被造物の因果的相互作用の背後に神の存在を見ていたカントに,原因と結果の結合をめぐる問い,とりわけ神の原因としての働きに関わるその問いが,形而上学の可能性を左右する重大な問いとして浮上し,この点の検討が批判期カントの主要な課題となっていくのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前批判期カントの因果論の概要を,関連諸著作(『形而上学的認識の第一原理の新解明』『感性界と知性界の形式と原理』『負量の概念』など)に即して明らかにするという本年度の計画を達成し,関連する論文を執筆して発表することができた。 また次年度に計画している批判期の因果論の解明に向けて,批判期の主著である『純粋理性批判』の関連個所の読解作業にも着手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り,批判期カントの因果論の検討を行う。そのために『純粋理性批判』の関連個所の読解作業を継続して実施するとともに,『プロレゴメナ』の関連個所の読解作業にも取り組む。 なお前批判期の因果論が形而上学的な性格のものであることを明らかにすることができたので,批判期の因果論がそうした性格を引き継いでいるか否か,換言すれば,認識論的な性格のものに変質しているか否かが検討の鍵になる。そこで批判期カントの哲学を形而上学として捉えたハイデガーの解釈(『カントと形而上学の問題』)と,批判期カントの哲学を認識論として捉えたカッシーラーの解釈(『認識問題』)などを手掛かりとして研究を進める。
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