2023 Fiscal Year Research-status Report
<自由の秩序>を新たに構想し正当化するための理論的研究
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22K00034
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
舟場 保之 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (20379217)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | カント的共和主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハーバーマスの論じる「カント的共和主義」の射程を見定めるため、カントの人権論に関して、ゴーゼパートやニーダーベルガーのカント解釈とヘッフェやモサイェビのカント解釈を比較検討し、第14回大阪哲学ゼミナール(2023年9月2日、大阪大学豊中キャンパス)において口頭発表を行った。また、3. Supranationales Philosophie Kolloquium(2023年11月28日、30日、フランクフルトおよびエッセン)において、カント『永遠平和のために』の特殊性を明らかにしつつ、道徳的片務主義こそが法的状態を必然的に要求することを示し、ルッツ=バッハマンおよびニーダーベルガーと意見交換を行った。発表原稿をもとにした論文 Was in der Friedensschrift nicht thematisiert wird を Philosophia OSAKA No.19に掲載した。ヘッフェおよびモサイェビのようなカント解釈の場合、法的主体であるためには道徳的主体であることが必要であり、法的自由が可能になるためには道徳的自由が可能にならなければならない。それは、共和主義が成立するためにはまず自由主義が成立することを意味する。これに反して、ゴーゼパートおよびニーダーベルガーのカント解釈によれば、カントにおいては法的主体であるために道徳的主体であることが必要条件でも十分条件でもなく、したがって道徳的自由を前提とすることなく、法的自由を論じることができる。共和主義が成立するために、まず自由主義が成立していなければならないというわけではないのである。ここに「カント的共和主義」の一端を見出すことができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
道徳的自由を可能にしつつ道徳的自由とは異なる政治的自由が同時に確保されるような<自由の秩序>はいかにして可能であるかを考察するうえで、キーワードとなるハーバーマスの「カント的共和主義」がどのようなものであるのかを、ゴーゼパートおよびニーダーベルガーのカント解釈とヘッフェおよびモサイェビのカント解釈とを比較対照することによって明らかにすることができた。後者のカント解釈では、政治的自由が成立するためには、まず道徳的自由が成立している必要があることになるが、こうした前提では探究の目標とする<自由の秩序>に至ることができない。というのも、このとき道徳的自由は政治的自由を前提とすることなく、成立することになるからである。それに対して、前者の議論では、法的自由が成立するための必要条件として、道徳的自由が考えられることはない。そうした理路を、カントの『人倫の形而上学』に見出すことができる。このように、「カント的共和主義」がいかにして成立するか、そしてその内実はいかなるものであるのかを明らかにすることができ、<自由の秩序>へと至る道筋が開けたため、研究全体から見て、研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
自由主義にも共和主義にも還元されない新たな<自由の秩序>を提示できるように、自由主義的立場をとるヴォルフガング・ケアスティングの議論、共和主義的立場をとるゲオルク・ローマンの議論、そしてカント的共和主義の立場をとるアンドレアス・ニーダーベルガーの議論を再度比較検討し、それぞれの議論の特徴づけと異同の明確化を図るとともに、それぞれの問題点に焦点を絞る。ケアスティングにおいては、なぜ道徳的自由に加えて法的-政治的自由が必要となるのか、そもそも道徳的自由は法的-政治的自由を前提とすることなくいかにして成立するのか、逆にローマンにおいては、なぜ法的-政治的自由が道徳的自由を可能にすると言えるのか、そもそも法的-政治的自由は道徳的自由を可能にするだけなのか、といったトピックを中心に議論を検討し、学会や研究会において研究成果を討論に付すこととする。研究の過程で、ルッツ=バッハマンやニーダーベルガーとは国際会議を開いて直接意見交換を行い、新たな<自由の秩序>の試論を展開しつつこれを彫琢していく。
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Causes of Carryover |
ドイツでの国際会議を参加者の都合により短縮して行ったため、次年度使用額が生じた。次年度、予定通りの日程で国際会議を開催する計画である。
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