2022 Fiscal Year Annual Research Report
音楽作品の存在論に関する学際的研究:哲学と音楽学を架橋する
Project/Area Number |
22K00045
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
田邉 健太郎 立命館大学, 衣笠総合研究機構, プロジェクト研究員 (90738197)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 音楽知覚 / 「として見る(seeing as)」 / ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン / 批評 / 音楽批評 / 認識論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は哲学と音楽学の知見を参照しながら存在論的問題を解明することを目的としている。本年度は予備的考察として、音楽知覚に関わる諸問題に取り組んだ。 「なぜこの音楽はこんなにもワクワクするのだろう」といった感情的反応に関係する問いは、音楽を聴く多くの人々に喚起される問いだろう。しかし、感情以外にも、音楽を聴くときには多くの心理的働きが行使されている。たとえば「先ほども出てきたフレーズだな」といった記憶にまつわる働きがそれである。また、我々が聴きとることのできる音、すなわち意識に上っている音以外にも、演奏では多くの音が鳴っている。では、意識の上ることのない音は、知覚の中でどういう役割を担っており、どのように処理されるのだろうか。さらに、聴き方にも変化が生じることがある。様々なジャンルの音楽を聴き比べ、音楽について書かれた書物を読むことで、今まで気づかなかった音楽の特徴に気づいたり、印象が大きく変わったりする。このような変化は、聴き手の側でいかにして生じるのだろうか。本年度取り組んだ音楽知覚の諸問題とは、このように、記憶、認知など、基礎的な心理的働きのレベルに焦点を当てたものである。 本研究はルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの「として見る」という発想に着想を得て、「この和声をAとして/Bとして聴く」「このフレーズを泣き声として聴く」など、知覚に知識が介入すると思われる事例を分析し、知覚と知識のかかわりについて検討した。 哲学、音楽学、心理学を架橋した本研究は、たとえば以下のような課題に発展させることが可能である。楽曲の分析と心理学的研究はどのように結びつくのだろうか。「として見る」を、音楽を超えて聴覚一般に適用したときに、類似性と差異をどこに見出すことができるのだろうか。また、言語と知覚という観点から、(音楽)批評に関する研究とも、本研究は連携することができるだろう。
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