2022 Fiscal Year Research-status Report
チベット仏教の超宗派(リメー)における般若学の研究
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22K00059
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
石川 美恵 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (80385963)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | チベット仏教 / 現観荘厳論 / 般若学 / パトゥル・リンポチェ / 超宗派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀のチベットで興ったリメー(超宗派運動)の実践家であり、ゾクチェンの加行をわかりやすく解説した『クンサン・ラマの教え』の著者で遊行の成就者でもあったパトゥル・リンポチェ(以下「パトゥル」と略称)、即ちオギェン・ジクメ・チューキワンポの、ハリバドラによる『現観荘厳論 小註』の3種の複註のうち、『語義解釈』を中心に、(1)テキストデータを入力し、(2)校訂するとともに、(3)和訳を通して、(4)本文に織り込まれた詳細な内容見出し(科段)と術語を抽出した上で、(5)パトゥルが手本としたツォンカパの解釈と比較し、異同を整理することを目的とする。 ニンマ派学僧のパトゥルが「ツォンカパ尊者が解釈したのに従って」『現観荘厳論』を解説していることは、パトゥルの小註複註の1つである『修習次第』の奥書から明らかであるが、本年度はパトゥルがどのようにツォンカパの学系を受け継いだかを、学友であるコントゥル・ロドゥータイェーの聴聞録とダライラマ5世の『現観荘厳論』の偈と注釈の伝授の相承録、およびゲルク派高僧伝から明らかにした。 また、テキスト校訂に用いる版として2点の洋装本と1点の写本を入手し、全体の2/3の校訂を終えているが、東洋文庫所蔵の河口慧海将来写本の中にもパトゥルの3種の『現観荘厳論 小註』複註が現存することが判明したほか、現パトゥル・リンポチェ(ゾクチェン・ラニャク・パトゥル・リンポチェ)の発案・監修により2020年に発行された最新のパトゥル・リンポチェ全集も入手することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 『小註 語義解釈』のテキストの入力は2/3を終え、既に入手している3点のテキストにより、校訂も2/3を終えている。 全体の概略を掴む最初の章に時間をかけ、弥勒の『現観荘厳論』の偈頌も盛り込み和訳しながら進めているため、和訳に関しては予定よりやや遅れているが、定期的に研究協力を得られるインフォーマントだけでなく、現パトゥル・リンポチェやニンマ派の学匠からも助言を得られる環境も整い、必要に応じて教示を受けながら進める環境も整ったため、「概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度中に、令和4年度に入手した2点のテキスト(現パトゥル・リンポチェ監修写本および河口慧海将来写本)も加えた計5点を用い、『小註 語義解釈』と『小註 修習次第』の校訂と和訳を終える予定である。引き続き定期的にインフォーマントに助言を受けるだけでなく、現パトゥル・リンポチェやニンマ派の高僧に対する質疑応答の結果も、テキスト校訂と和訳に反映させていく。これらをもとに術語の抽出を行い、術語ごとに整理する作業も進める予定である。
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Causes of Carryover |
インフォーマントに研究協力を依頼し内容の理解を深め、校訂と和訳を進めるため。研究協力者に、術語や語義のリスト化等、術語の整理と見直しを依頼するため。
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