2022 Fiscal Year Research-status Report
アジア・太平洋戦争期「日本的基督教」―神学的可能性の検討と戦後における展開の探究
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22K00077
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Research Institution | Seigakuin University |
Principal Investigator |
村松 晋 聖学院大学, 人文学部, 教授 (40383301)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | キリスト教 / 神学 / 宗教学 / 思想史 / 日本近代史 / 近代の超克 / 桑田秀延 北森嘉蔵 / 有賀鐵太郎 松村克己 |
Outline of Annual Research Achievements |
1936年、日本諸学振興委員会の設立を皮切りに、「日本国家学」「日本経済学」等、「日本」を冠する数多の学問が提唱されるなど、昭和10年代の学界は広く転機を迎えた。如上の思潮に呼応するように、キリスト教界でも「日本基督教」を称する神学者達が現れた。その企ては戦時体制への迎合として否定的に位置づけられてきたが、当時のキリスト教界を牽引し、戦後も活躍した神学者達が積極的にかかわった以上、そこには権力への忖度や一時の迷走とは言い切れない面があったのではないか。むしろ「日本基督教」の試みには、同時代の神学者が主体的に参画するに足る関心が息づいていたからこそ、斯界の識者が多数参与したと想定される。こうした見通しに基づいて、本年度は「日本基督教」を提唱した代表的な神学者である桑田秀延、北森嘉蔵、有賀鐵太郎、松村克己の言説を内在的に考察し、現代において共有可能な神学的可能性を摘出することを試みた。 考察の結果として第一に、アジア・太平洋戦争期の「日本基督教」には、西欧キリスト教の翻案に止まらない自生的キリスト教への眼があった。桑田に顕著なその関心は、1960年代のキリスト教土着化論に先んずる。第二に、北森の課題意識に表れているように、「日本基督教」にはその創造を通し、西欧キリスト教の「限界」を「超克」しようとする意志も息づいていた。第三に、有賀の主張が象徴するように、「日本基督教」をめぐる言説には、キリスト教の多元的な発現形態を承認し、各々を対等に評価しようとする開かれた視点が存在した。一方、積極的に戦時体制に加担した松村の所論にも、現代の伝道や牧会に応用可能な提言が含まれていた。ただしいずれの神学者も、「近代の超克」や「世界史の哲学」を追求した思想家同様、アジア・太平洋戦争という未曽有の「危機」に吸引され、「国体」や「日本的思惟」を相対化する眼は持ち得なかったことを付言しておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、本研究課題に関連する以下4点の学術活動を行った。①日本基督教学会第70回学術大会において、「アジア・太平洋戦争期『日本基督教』の射程―その神学的可能性の検討」と題して学会発表を行った(2022年9月1日、オンライン)。②キリスト教史学会第73回大会において、「桑田秀延の『日本基督教』とその可能性―アジア・太平洋戦争期の日本におけるキリスト教への一視角」と題して学会発表を行った(2022年9月13日、オンライン)。③『日本の神学』62号(日本基督教学会)に「アジア・太平洋戦争期『日本基督教』の射程―その神学的可能性の検討」と題する論文を投稿した。④『キリスト教史学』77集(キリスト教史学会)に「桑田秀延の『日本基督教』とその可能性―アジア・太平洋戦争期の日本におけるキリスト教への一視角」と題する論文を投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、以下3点の解明を課題とする。①「日本的基督教」を媒介に日本プロテスタント史における戦前・戦後の関係性を究明することで、戦後日本キリスト教思想史への視角を更新する。具体的には、戦後初期における関根正雄の「無教会」論を、戦前期「日本的基督教」に託された問題関心の発展形態として位置づける。研究成果は関連学会で口頭発表し、論文化する。②上記の一環として、南原繁がアジア・太平洋戦争中に展開した「日本的キリスト教」構想を精査し、その意義と問題点を究明する。研究成果は関連学会で口頭発表し、論文化する。③アジア・太平洋戦争期「日本的基督教」の源流をさかのぼり、明治期プロテスタント思想の中にその萌芽を探る。具体的には、W・クラーク門下の大島正健の初期の信仰・思想を対象とする。研究成果は関連学会で口頭発表し、論文化する。
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Causes of Carryover |
①研究活動に携帯するノートパソコンを購入する予定であったが、用途に適したものが見当たらず、購入を控えたため。②コロナの第7波(夏)、第8波(冬)により、当該期に予定していた資料調査を控えたため。いずれも必要なため、今年度に最新版のノートパソコン購入と資料調査の実施を検討している。
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