2022 Fiscal Year Research-status Report
Historiography of Religions in Late Antiquity: Formation, Succession and Reception
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22K00093
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高久 恭子 (中西恭子) 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (90626590)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 新プラトン主義 / 古代ローマ史 / 古代ローマ宗教史 / アダプテーション / 古典受容史 / 初期キリスト教史 / 宗教と文学 / 歴史叙述 |
Outline of Annual Research Achievements |
本計画は、科学研究費助成事業基盤研究C「古代末期地中海世界の教養文化における宗教像と宗教史像の思想史」(18K00099)の継続課題である。本年度は古代末期地中海世界の思想家の著作における宗教史の回顧の事例整理にあたった。成果報告は主に口頭発表・講演で行った。 科学研究費助成事業基盤研究B「中世・近世のイスラム圏と西欧における魔術的知の交流史」(魔術研、22H00610)レクチャーシリーズで招待講演「古代ギリシアの神働術」を行った(2022年7月30日、オンライン)。古代地中海世界の宗教誌叙述の特色と、錬金術・魔術の思考構造を概観した上で、プロティノス以降の新プラトン主義者の儀礼観と教団宗教外の霊性実践としての神働術像の展開を紹介した。 方法論懇話会シンポジウム「宗教=歴史実践をひらく」提題「古代末期地中海世界における宗教史の回顧」(2022年9月7日、オンライン)と科学研究費助成事業基盤研究A「生きられた古代宗教の視点による古代ユダヤ変革期の東地中海の総合的宗教史構築」(20H00004) 研究会での報告「古代末期の新プラトン主義者と宗教実践論をめぐる思索」(2022年9月25日、オンライン)でも古代末期の新プラトン主義者による宗教史像を紹介した。 白百合女子大学キリスト教文化研究所研究プロジェクト「愛と知識」2022年度第2回研究会報告「「生きられた宗教」としての帝政後期ローマの信仰世界」(2023年3月10日、オンライン)・日本基督教学会関東支部会シンポジウム「キリスト教と多様性」提題「「生きられた宗教」とジェンダー 古代末期の事例を読む」(2023年3月22日、桜美林大学)では、紀元後4世紀にジェンダーにかんする規範的テクストとして書かれたキリスト教文献を規範の再強化の根拠とせずに、古代末期における「生きられた宗教」理解の手がかりとする方法について問題提起を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は口頭発表・招待講演・アウトリーチ活動を通して、古代末期地中海世界における宗教実践と宗教史叙述の実態について見通しを与えるとともに後世における「西洋古代・中世的なもの」のイメージとそのアダプテーションの構造を明らかにする知識の提供が強く求められていることを改めて認識した。 音楽実践への古典受容史からの寄与として、プロジェクト・ムジカ・メンスラビリス公演「アレゴリー Allegoria ~中世後期の音楽に描かれたギリシャ神話~」事前対談(2022年4月13日、オンライン)で、西洋中世後期の音楽と文学における古典受容について知識の提供と対話を行った。 現代の文学における「前近代的宗教知」のアダプテーションについては『ユリイカ』(青土社)編集部から依頼を受けて寄稿する機会を得た。「特集・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ」(2022年7月号)に寄稿した「声なきものの声を織る スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの「小さき人々」」では、東方キリスト教世界に広くみられるケノーシス論の痕跡とアレクシエーヴィチの著作における「小さき人々」像の連関を論じ、「特集・コペルニクス」(2023年1月号)に寄稿した「歴史創作と虚実の星列」では、魚豊『チ。―地球の運動について―』にみられる虚構の「中世後期」像と知識と思考の自由を求める人間像を論じた。 慶應義塾大学アート・センター『Booklet』シリーズでの西脇順三郎没後40年記念論集『没後40年 西脇順三郎──無限の過去、無限の未来』(2023年3月)では、論考「多面的光源体としての西脇順三郎」を依頼原稿として寄稿し、西脇順三郎の「散歩の意識の流れ」の詩法と西洋古典のアダプテーションについて考察した。 以上の活動は、古代末期地中海世界の思想家群の宗教史観とその思考構造を明快に伝えつつそのアダプテーションへの理解を深める著作の構想につながった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、紀元後4世紀の新プラトン主義者ローマ皇帝ユリアヌスの著作群とその摘要というべきサルスティウス『神々と世界について』を翻訳紹介し、日本語で読める環境を作ることは前科研費計画からの継続事項である。この課題に改めて取り組み、研究の充実をはかりたい。 本計画ではそれに加えて、講演「古代ギリシアの神働術」でも紹介した古代末期地中海世界の思想家のみた宗教史の回顧の過程と、そのなかの現代人からみて「魔術的知」とされれる錬金術・占星術・魔術・神働術実践の思考構造をまず明らかにしたい。このとき、神働術史に加えて、プロティノスとポルピュリオスからイアンブリコス『エジプト人の秘儀について』に至る宗教観・儀礼論の紹介や、テオドシウス朝からユスティニアヌス朝にかけての新プラトン主義者の宗教論の展開とその射程についてまず整理し、紹介する機会を模索する。成果を集積して、本科研費計画の助成期間内に単著化の方途を見出すことをさしあたりの目標とする。 ルネサンスにおける新プラトン主義の宗教論・儀礼論のアダプテーションの過程を明らかにするさいに読むべき史料と研究史を明らかにすることは、本年度中に試みたい作業のひとつである。海外学会での報告・欧文論考の発表も射程に入れ、マルシリオ・フィチーノとゲミストス・プレトンの著作を当面の手がかりとして調査を開始する。 前科研費計画からの継続事項としては、古代末期における「生きられた宗教」研究がある。このとき、キリスト教内在的な護教的・規範的言説を相対化し、宗教の生活誌のなかの多様性を叙述するための適切な方法を見いだす試みが必要となる。発表媒体を検討するとともに、論考化ないしは単著化の機会を模索する。 近現代における古典受容史研究については、今後も新たな発表の機会とアウトリーチ活動の機会があるものと予想する。積極的に取り組み、新たな視座を得る機会を得るきっかけとしたい。
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Causes of Carryover |
当初、2022年度はパンデミックが解消して国内外への学会および文献調査のための出張が可能になるものと予想していたが、2022年度もパンデミック対策として学会・研究会のオンライン開催が続き、東京の外で開催される国内学会への出張の可能性がなくなったため。また、2022年度後半には一部海外出張も可能となったが、航空券と宿泊費の高騰により、本研究計画の予算内での複数回の渡航が不可能であったため。2023年度には、2022年度の余剰分は国内外出張費の一部として使用する。
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Research Products
(8 results)