2022 Fiscal Year Research-status Report
文化の新たな理論言語:ラカンの精神分析に基づく人文科学のマテーム構築の基礎的研究
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22K00094
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
原 和之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00293118)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ラカン / シニフィアン連鎖 / グラフ / 選言構造 / コジェーヴ / パスカル / デカルト / ファンタスム |
Outline of Annual Research Achievements |
文化現象についての新たな理論言語をラカンの精神分析を基に構想しようとする本研究のうち、初年度となる2022年度は、その核となるラカンの言語論的な構想、より具体的には1950年代に提示されたシニフィアン連鎖とグラフをめぐる議論を、先行する時期の議論との関わりで位置づけつつ、これが1960年代にどのように深化されたかを明らかにした。この作業は大きく三つの部分に分けられる。 まずラカンの思想の出発点となる精神医学分野の博士論文に、人間の欲望を事実ではなく、あくまで想定―ラカンの言い方に倣えば「公準」―として考える構想があることを確認したうえで、この構想に潜在する特異な「欲望の欲望」を、1930年代にコジェーヴの「主奴の弁証法」への参照がどのように引き出し得たのかを論じ、さらにその構想が1950年代のエディプス・コンプレックスの読み直しの核心に位置づけられること、またそれがやはり同じ時期に提出されたシニフィアン連鎖とグラフの装置を理解するうえで、一貫した視座を提供するものであることを示した。 このシニフィアン連鎖とグラフの装置は、二重の選言的な構造を持つものとして理解されるが、ラカンが1960年代にこの構造について考察を進めるにあたって繰り返し参照したのが、所謂「パスカルの賭」の議論である。このラカンのパスカル論を、当時の議論の文脈を再構成しまた最近のパスカル研究を参照しつつ検討し、それがどのようにして、シニフィアン連鎖とグラフの装置が取り出していた選言構造をめぐる議論を深化させつつ、それまでラカンが専らシニフィアンの観点から理解してきた言語のあり方のなかに、文字ないしエクリチュールという次元を析出させたのかを示した。 さらにこのパスカル論にやや先立つ時期のセミネール『ファンタスムの論理』における、デカルトのコギトが特異な選言構造とのかかわりで論じられている個所を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラカンのパスカル論の検討を中心に、予定していた主要な作業をおおむね終えることができた。若干の積み残しはあるが、他方で2年目以降に予定していた作業を先取り的に進められた部分もあり、総体として順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
積み残した選言構造とコギトをめぐる議論の検討を進めるとともに、2年目に予定していたラカンとヘーゲル論理学との関わりを、別の科研で関係の生じたヘーゲル研究者らの協力も仰ぎながら進めてゆく。
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Causes of Carryover |
ヨーロッパ方面の航空運賃高騰に鑑み翌年分と合算して学会参加に必要な渡航費を捻出することを考えたため。
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