2023 Fiscal Year Research-status Report
文化の新たな理論言語:ラカンの精神分析に基づく人文科学のマテーム構築の基礎的研究
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22K00094
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
原 和之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00293118)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ラカン / 欲望 / ファンタスム / コギト / ヒンティッカ / 弁証法 / 愛 / 現実界 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2年目となる2023年度は、ラカンの精神分析理論と論理学の関係のうち、2023年にミレール版の刊行がなったセミネール『ファンタスムの論理』の議論、とりわけデカルトの「私は考える、ゆえに私はある」を「私は考えないか、私は存在しないかのいずれかである」の選言命題に読み替えたうえで、それを起点に「クライン群」様の四項図式を組み立てこれをもとに精神分析のプロセスを論じた部分を、J・ヒンティッカの論文「コギト・エルゴ・スムは推論か行為遂行か」と対照しつつ検討した。その成果は日本ラカン協会の論集22号に上記セミネールの書評論文として発表した。 また彼の理論が、ヘーゲルの弁証法の構想と重なりつつも、そのコジェーヴ的な理解とは異なった仕方で練り上げられていることについての検討をすすめ、その成果の一部についてはISPP-SIPP Conference 2023のパネル発表「所有の絶対化と愛の問題におけるその理論的帰結」および第62回哲学会シンポジウム「「世界哲学」という視点」における講演「生成を語る―精神分析と哲学」で発表した。 さらにISPP-SIPP Conference 2023ではまた、ラカンが人間についてその欲望を理論化するに際して重要な役割を果たしている「現実的なもの」ないし「現実界」の概念について、その説明の際にしばしば訴えられる「外」という形象が、彼の理論化した言語的装置とのかかわりで、複数の仕方で定義できることを指摘するとともに、そうした理論化の総体が欲望とその対象の二項関係によって枠づけられていることを示す研究発表を行った。 成果発表には至らなかったが、ヘーゲル論理学との接続についてはスラヴォイ・ジジェクの試みを、その周辺文献に遡りつつ引き続き検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヘーゲル論理学については成果発表には至らなかったものの、作業は順調であり、また弁証法の位置づけについての検討が国際学会でのパネル発表に至った点は、予定以上の成果だった。総体として順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ラカンとヘーゲル論理学の関係についての成果発表の準備をさらに進めるとともに、また三年目に予定していた文化・批評理論における「理論」の地位に関する調査を進めて行く。
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Causes of Carryover |
物価高騰や円安に鑑み翌年分と合算して学会参加に必要な渡航費を捻出することを考えたため。
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