2022 Fiscal Year Research-status Report
Incidental Music and Ballet Music of Ludwig van Beethoven
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22K00120
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
沼口 隆 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (70453529)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ベートーヴェン / ヴィガノ / ゲーテ / プロメテウス / エグモント / バレエ音楽 / 劇付随音楽 / ロマン派 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度においては、ベートーヴェンの舞台作品のうち、まずバレエ音楽《プロメテウスの創造物》に関して、台本が消失していることから、Carlo RitorniによるSalvatoe Vigano(初演時の振付師およびダンサー)の伝記の中に見られる粗筋に着目し、イタリア語の専門家に訳出を依頼した。既述されているものは台本ではなく、内容面でもベートーヴェンが付曲したものと同一であるとは確言できないが、全体の流れは充分に掴むことができ、また内容面でも初演時との同一性が損なわれるほどの逸脱があるとは考えられないことから、2024年度の実演を目標に、2023年に具体的な上演計画に入る予定となっている。 2022年9月には、12日間に亘ってドイツへの調査旅行を実施し、バイエルン州立図書館において(1)劇付随音楽《エグモント》に関する資料、(2)Bettina Brentanoをはじめとするドイツ・ロマン派の文筆家たちによるベートーヴェン像に関する資料、の二点の調査を行った。(1) に関しては、ベートーヴェンがゲーテの戯曲に付曲したのに対し、ベートーヴェンの音楽を基にして新たに書き下ろされた戯曲が少なくとも三点存在することから、そのテクストの複写を入手した。(2)に関しては、ゲーテが文学史において一般的に古典主義に位置づけられるのに対し、ベートーヴェンの音楽が、とりわけ劇付随音楽《エグモント》などの場合において、しばしばロマン派的と評価されていることに鑑み、Arnold Schmitzによる論考『ロマン派のベートーヴェン像Das romantische Beethovenbild』を主要な手掛かりとしながら、ロマン派的な脚色をされていない、ベートーヴェンの古典派的な側面に着目し、ゲーテとの親近性を論じるための準備とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上演を目指す作品として《プロメテウスの創造物》を選出し、焼失した台本に代わる有力な資料について優れた訳文が入手できたことは成果として挙げることができる。 一方、基礎的な資料には目を通しているものの「精読」や「整理」という段階には及んでおらず、批評に関しても、もう少しデータを整理する必要がある。次段階に進むのには、やや作業が不足している点から、進捗はあるものの遅れを認めざるを得ないと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最大の目的は、現代においてほとんど上演されることのないベートーヴェンの舞台作品を上演することにあるため、《プロメテウスの創造物》の上演に向けて、東京藝術大学演奏藝術センターと綿密に連携しつつ、台本作成などの初期段階から、できるだけ早く準備を進めてゆく。昨今は資金調達にも非常に大きな困難が伴うため、上演年度を明言することはできないが、2024年度を目標とする。 《エグモント》に関しては、研究計画的に前倒しになる面もあるが、ゲーテ以外の手になる台本の精読を進め、また批評を通じて19世紀の上演に関する情報を集めて、作品としての在り方に対する再考を進める。音楽批評のデータベース(RIPM= Repertoire international de la presse musicale)で検出される批評数は90件に満たず、それを概観することは十分に可能であるが、このデータベースで補いきれない情報をどこまで補足してゆけるかが、作業にかかる時間の面から課題となる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染状況を睨みつつ、渡航可能と判断して調査旅行を敢行した一方、パソコンは所持品でも必要性を満たしていたことから購入を差し控えるなど、大きい額での計画の変更が複数生じた。余剰分については、レクチャーを行わなかったこと、定期的なアルバイトを依頼しなかったことなどが要因となっているが、新型コロナウイルス感染症に対する大学としての対策にも大幅な変更が行われており、対面での企画や作業も容易になってきていることから、今後は積極的に進めてゆきたい。
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