2022 Fiscal Year Research-status Report
欧米諸国におけるいけ花受容と使用された伝書及びその絵図の研究
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22K00123
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
吉川 順子 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 准教授 (90732032)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | いけ花 / 伝書 / 遠州流 |
Outline of Annual Research Achievements |
主に江戸時代に編纂されたいけ花の伝書(『花道古書集成』『続花道古書集成』に収録されている約140編のほか、収録されていないものは国書データベースなどを参照)を可能な限り閲覧し、研究対象とする欧文文献で使用されたいけ花の作品図の約8割(約370図)の出典を特定した。加えて、それらの欧文文献が刊行された19世紀のヨーロッパに存在した伝書を(オランダとフランスを中心に)調査し、オランダ商館医フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトが早くに持ち帰った伝書には立花様式と生花様式のものが混在していたのに対して、19世紀後半に収集された伝書(オランダの薬学者アントン・ヨハネス・ゲールツの収集品と推測されるものなど)は強調的な曲線に特徴がある遠州流の生花様式のものが多かったことを確認した。これは、イギリスの建築家ジョサイア・コンドルが1889年以降に発表したいけ花に関する一連の著作で遠州流を重視し、いけ花の線の美を見出した以前もしくは同時期に、ヨーロッパの人々の間で遠州流の花形への好みがあったことや、いけ花の実物に先立って流通した伝書および浮世絵師らによって描かれたその作品図がヨーロッパの人々のいけ花観の形成に影響を及ぼした可能性を示す重要な事実である。以上の成果(特定した作品図の出典については一部のみ)を雑誌論文「ヨーロッパにもたらされた花の伝書-オランダとフランスを中心に」(国際いけ花学会紀要『いけ花文化研究』)で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象とする欧文文献で使用されたいけ花の作品図の出典の特定がほぼ予定通り進んだため。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、研究対象とする欧文文献のうちジャポニスムの中心地であったフランスの文献で早くから使用されたいけ花の作品図の出典を明らかにし、その特徴を花材・花器・花形などの点から分析して、文献の内容との関連性を検討する。参照された遠州流を始めとする伝書の日本およびヨーロッパでの流通についてもさらに調査する。また、研究対象とするすべての欧文文献で使用されたいけ花の作品図のうち、まだ出典が判明していない約2割の調査も引き続き行う。
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Causes of Carryover |
国文学研究資料館「国書データベース」の充実化と令和4年からの国立国会図書館「個人向けデジタル化資料送信サービス」の開始によっていけ花の伝書のオンライン閲覧が容易になったほか、参加を予定していた学会がオンライン開催となったことで、国内旅費がかからなかったことによる。一方、どの公的機関にも所蔵されていない伝書が市中に出回っていることがあるとわかったため(令和4年度にも本研究にとって不可欠で価値の高い江戸時代の伝書を入手した)、次年度使用額はそうした伝書の購入などに充てる予定である。
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Research Products
(1 results)