2023 Fiscal Year Research-status Report
19世紀ドイツの音楽祭研究―リストの改革と教養市民層の新たな文化構築
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22K00127
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Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
上山 典子 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (90318577)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 音楽祭 / リスト / 19世紀 / カールスルーエ音楽祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はリストが監督や指揮者を務めた19世紀半ばの音楽祭の内容(特にプログラム、出演者)に注目し、世紀前半までの音楽祭のあり方と、どのような点が、どのように異なるのか、という具体的な比較に重点を置いて研究を進めた。 英独両方の一次資料を豊富に所蔵する大英図書館での資料閲覧と収集を経て、日本音楽学会の全国大会(於 聖徳大学)において、「リストと『未来の音楽祭』」のタイトルで口頭発表を行った。そこでは、ヴァイマル宮廷楽長の地位にあったリストが率いたバレンシュテット音楽祭(1852)とカールスルーエ音楽祭(1853)を出発点に、エルベ音楽祭(1856)、アーヘンでの低地ライン音楽祭(1857)などリストがヴァイマル以外の地でかかわった音楽祭の全体像を概観し、アマチュア主体の祝祭地域イベントから「未来の音楽祭」への転換の過程を追った。 またこの口頭発表の中で取り上げたカールスルエ音楽祭について、『東邦音楽大学研究紀要』に論文を投稿した(2023年度の『紀要』として本来3月末に出版される予定だったが、本報告書を作成した2024年4月25日時点で初稿待ちとなっている)。そこでは1853年10月3~6日に開かれた音楽祭のリストによるプログラミングと指揮、この演奏会に対するジャーナリズムの反応などを検討した。カールスルーエ音楽祭は南ドイツで開かれた事実上初めての大規模イベントとして当時大きな注目を集めたものだった。リスト文献の枠内で、この音楽祭の名称が言及されることは珍しくなかったものの、これまでの音楽史研究において、その内容的詳細が考察されることはほとんどなかった。そのため本稿は、19世紀半ばにリストが携わった音楽祭における具体的改革の一つを明らかにすることを目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はまず、1850年代のリストが監督を務めた合計13の音楽祭のプログラム(曲目と演奏者)を整理した。そしてこれらを出発点に、それぞれの音楽祭を個別に検討する段階に入ったところで、これまでにカールスルエ音楽祭についてはおおむね考察を終えた。現在は、1852年に開催されたバレンシュテット音楽祭に関する研究に着手している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究3年目となる2024年度は、まず、リストが1852年に指揮をしたバレンシュテット音楽祭について、5月に国際学会で口頭発表を行う予定となっており、その後、論文としてまとめる。 また、リストが中心的役割を果たしたいわゆる進歩派と、それに対立する保守派との論争がいよいよ激しさを増してきた1850年代半ばの音楽祭についても、それぞれ個別に取り上げていく。すなわち、1856年6月14日にマクデブルクで開催されたエルベ音楽祭と、1857年5月31日~6月2日にアーヘンで開催された第35回低地ライン音楽祭で、ベルリオーズ、リスト、そしてワーグナーという当時の前衛音楽家たちの作品がどのように配置され、どのように受け取られたのかを中心に、考察していく。 最終的には、現代音楽の普及という社会的使命に基づくリストの理念が、やがて進歩派陣営が結集する第一回音楽家集会(1859)とそれに続く全ドイツ音楽家協会(ADMV)の設立(1861)へとつながっていく過程を明確にしていきたい。
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Causes of Carryover |
2023年度の研究経費700,000円の残高は86,240円だが、2022年度の未使用額が大きかったため、今年度末の時点で393,409円が次年度への繰越額として残った。科研費申請当初は未定だった国際会議出席(2024年5月に予定)のための渡航費用に充てる予定。
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