2023 Fiscal Year Research-status Report
ゲームオーディオ研究のマッピング~主要論点の整理と国内学術言説の位置付け
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22K00139
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山上 揚平 東京大学, 教養学部, 特任講師 (20637079)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ゲームオーディオ / ゲーム音楽 / サウンドデザイン / ビデオゲーム / デジタルゲーム / ルドミュジコロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
二年目となる令和5年度は本研究プロジェクトの基盤である「ゲームオーディオ研究文献データベース」(仮題)の作成を引き続き進めた。英語を中心とした欧文文献資料については、先行研究がまとめた書誌情報、及びWeb上のデータベースを活用しつつ令和4年度に構築したベース部分に更に数十点の資料を追加した上で、引き続き書誌情報の精査・訂正、資料本体の確認および収集を進めた。邦文文献資料については、Cinii Research、NDLサーチ等においてワード検索で抽出した約600点の様々な形態の資料から、手動で約150点の書籍、論文、記事資料を選別する作業を行い、アルバイトの協力のもとリストを作成した。こちらも資料本体の収集と内容確認も同時に進めている。 重要論点のピックアップおよびキー概念の整理作業に関しては、「音楽ゲーム music video game」を巡る先行研究、および「ゲームプレイと音楽行為」を巡る先行議論の整理を行い、日本音楽学会第85回東日本支部定例研究会にて「ビデオゲームプレイと音楽的行為――Ludomusicologyにおける「ミュージッキング」概念の展開について」、日本デジタルゲーム学会第14回年次大会にて「「音楽ゲーム」は何が音楽的なのか?――デジタルゲーム独自の「音楽的行為」の解明へ向けた"Music Video Games"を巡るゲームオーディオ研究総括の試み」の2点の研究発表(および1点の予稿論文執筆)を行った。 また、関西地方への出張調査・取材を行い、文化庁との様々なプロジェクトに関わる関西在住のゲームオーディオ研究者、及び本研究と密接な繋がりを持つデジタルゲーム研究自体のマッピング調査に関わった研究者と対面で意見交換を行い、貴重な情報および研究上の助言を得ることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献データベース構築に関しては、欧文文献に続いて邦文文献も基盤となる書誌データは八割方以上が収集出来たと見込まれる。それは存在する邦文資料の総点数が予想以上に少なかったという事実に因るが、その為に資料本体の収集や内容確認も想定以上のペースで進めることが出来た。一方で国外先行研究の議論の広がり、層の厚みは当初の見立て以上であり、更なる読み込みが必要な資料の割合はまだまだ大きく、個々の資料への内容に基づいたキーワード(タグ)の付与や重要論点及びキー概念のピックアップ/整理作業に関してはやや予定よりも遅れていると判断される。またデータの書式の統一作業や情報の訂正作業にもまだ時間がかかる見通しである。 他方で、年度の終わりになって他の研究者との協働態勢がようやく整ったことで、これ以降、重要文献の選定、キーワードの選出等の作業が本格的に進展することが期待される。また彼らの協力を取り付けたことで、最終年度の研究成果発表イベントに向けての下準備にも着手することが出来た。 更には、令和5年度は「研究実績の概要」で触れたように、日本音楽学会と日本デジタルゲーム学会という異なる学術フィールドで、互に深く関連した二つの重要トピックを巡る研究発表を行い、それぞれのフィールドから違った角度からの研究上の示唆を得ることが出来た。これも当研究にとって意義深い収穫だと思われる。 以上より、部分的には計画より遅れている課題はあるものの、総体としては「おおむね順調に進展している」という現状認識がもっとも適当だと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き文献データベースの整備と拡充を進めつつ、重要資料の選定と読み込み、それによるキー概念や理論的枠組みの整理という作業を本格的に進める。年度の早い時期に文献データベースの暫定版を協力をお願いしている複数の研究者と共有し、対面およびオンラインで適宜、意見を交換しつつ重要資料の選定や重要トピック、キー概念等の選出作業を進めていく。場合によっては資料タイトルや著者が付与したキーワードを対象にテキストマイニングを行ない、定量分析的な側面からのトピック抽出も試みる可能性がある。またこれまでの年度と同様、ある程度、議論の整理のついたトピックから進捗を学会発表等で公開していく予定である。 年度の後半は上記の作業に基づき、現在までのゲームオーディオ研究のマッピングを試みる。これまでに浮かび上がって来た主要な問題系、キー概念、新しい理論的枠組み等々の相互間の関連性、研究全体への位置づけを明らかにすると共に、既存の音楽学、美学、サウンドスタディーズ等の諸問題との繋がりも可視化することを目指したい。 年度末には総括的な研究成果発表として東京大学駒場キャンパス18号館ホールにて、アカデミック内外の研究者、音楽家、ゲーム業界関係者らと共同でシンポジウム企画およびレクチャーコンサート企画を開催し、より幅広い層にこの新しい学術研究分野の現状を知らしめたいと考えている。またこのシンポジウムの成果は最終的に論集という形でもアウトプットされる予定である。
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Causes of Carryover |
主要な理由は、急激な円安と燃料費の高騰、欧州での物価高等の重なりにより計画当初に予定していた海外学会の視察を見送ったことである。ただし円安はまた国外からの資料購入費用を押し上げた為、旅費に計上していた予算がそのまま繰越となったわけではない。「次年度使用額」に回った予算は引き続き国外からの資料購入費用の補填に宛てられる他、主には令和6年度末に予定されているシンポジウム+演奏会企画の準備および実施の費用に使われる予定である。具体的には国内外のゲストスピーカーの招聘費用(旅費・謝金)、演奏者への謝金等である。今回の計画変更により生じた繰越によって、イベントの規模を拡大し、都心でのシンポジウムへの登壇を依頼する上で旅費が生じてしまう遠方(海外含む)の方をより自由に呼べる可能性が広がることとなった。 加えて、上記のシンポジウムに絡められるか別の機会となるかは未定だが、当初の予定にあった海外視察を補うものとして、国外の研究者と意見交換の出来る別の機会を作る上での支出(旅費、謝金等)に宛てたいとも考えている。
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