2023 Fiscal Year Research-status Report
18世紀の「閾」の美学―量質転化現象としての美的性質をめぐる言説の思想史的研究―
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22K00141
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 卓史 京都大学, 文学研究科, 准教授 (90644972)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 閾 / バウムガルテン / 外延的明晰性 / 数学論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「美しい」「崇高だ」「滑稽だ」等の「美的性質(aesthetic qualities)」を「閾(threshold)」という概念、すなわち、徴表や刺激などの要素の「量」が「質」へと転化する現象として説明しうるという仮説の下、そのような言説を美学史、とりわけ、この学が成立した18世紀の中に探って再構成・系譜化するものである。 研究第二年度となる本年度は、バウムガルテン美学を支える鍵概念である「外延的明晰性(claritas extensiva)」、すなわち、「或る事物を他の諸事物から識別する」ための「徴表」そのものがさらに分析されて判明になる(=「内包的明晰性」)ではなく、徴表そのものはそれ以上分析できず混雑したままだがその数の多さを特徴とする明晰性、という概念を、「閾」という視点から再検討した。具体的には、『美学』(1750/58年)§619における、徴表の数という量が輝きという質に転化するメカニズムについての議論の背後には、『形而上学』(1739年)§§246-248における量と質をめぐる議論がある。また、同時期に執筆されたと推定される遺稿『哲学的百科全書素描』§128は、注できわめて詳細かつ広範にわたる数学論を展開しているが、そこでは「無限なものの解析」が「広義のライプニッツの微分」と明言されている。これらより、『美学』における「外延的明晰性」には、ライプニッツの微分論からの間接的影響を指摘しうる。これらをまとめた発表を、第16回国際18世紀学会において行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画において第二年度に実施することとしていた、バウムガルテン美学の「閾」概念からの再検討を一定程度達成しえたため。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、当初の研究計画にしたがってカントの美学を「閾」概念から再検討する。これについては、第15回国際カント学会での発表がすでに受理されている。 第二に、上記の本年度の研究成果を、発表後の質疑応答での指摘を踏まえて発展させる。具体的には、バウムガルテンのライプニッツ微分論の受容と、バウムガルテンの「応用数学」についてさらなる調査を行い、発表原稿を加筆修正して活字化する。
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Causes of Carryover |
「今後の研究の推進方策」に記した通り、次年度国際学会での発表が受理されている。他方、コロナ禍以降、航空券が高騰し、さらには円安も加わって、海外渡航に当初計上した以上の費用を要することが見込まれる。以上を踏まえ、次年度の海外渡航のために今年度の支出を抑制したため。繰越分は、次年度の国際学会参加に要する旅費に充当する。
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