2023 Fiscal Year Research-status Report
舞台芸術における「あいだ」の諸相と可能性 ―2010年以降のオペラ/音楽劇を例に
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22K00150
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
北川 千香子 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40768537)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | サルヴァトーレ・シャリーノ / カイヤ・サーリアホ / ハヤ・チェルノヴィン / クリストフ・マルターラー / 待機 / オペラ演出 |
Outline of Annual Research Achievements |
4年計画の2年目にあたる2023年度は、前年度で構築した「あいだ」の理論的基盤に立脚しつつ、複数のオペラ/音楽劇作品を取り上げて研究を進めた。 ・リスボンで開催された国際会議にて、細川俊夫の『松風』(2010)とカイヤ・サーリアホの『余韻 Only the Sound Remains』(2015)を対象として「あいだ」の表象を比較分析した。細川作品は、現実と幻想の「あいだ」、過去の記憶と未来への期待の「あいだ」を揺れ動き、静寂と響きの「あいだ」を浮遊する音を特徴とする。サーリアホ作品も同様に現実と非現実の「あいだ」の往来を主題とするが、その様相は電子音楽の特殊音響によって具体化され、そこに視覚と聴覚の共感覚性を指摘した。 ・ハヤ・チェルノヴィンの『インフィニット・ナウ』(2017)は、複数の言語、極めて多様で異質なサウンドやノイズ、歌唱と前言語的な発話行為の「あいだ」で進行し、それらが表象不可能な強烈なトラウマ体験を音響化する手段として機能していることを明らかにし、国際会議で発表した。 ・サルヴァトーレ・シャリーノの『ローエングリン』(1983)を題材に、主人公の「待機」に焦点を当て、「待機」する主体の内面での動きや、その人物が知覚しているであろう周囲の様々なサウンドやノイズが、シャリーノ特有の作曲美学でいかに具現化されているかを明らかにし、学術誌に投稿した。 ・上演および演出という観点から「あいだ」の作用を考察するため、クリストフ・マルターラー演出の『トリスタンとイゾルデ』(2015)を取り上げ、ワーグナーの原作の重要な主題である「待機」が、マルターラー演出では閉塞と空虚という一見矛盾する視覚効果によって知覚化されるプロセスを解明した。 ・ジェラール・モルティエ著『我々を変える演劇』を対象に、古典崇拝と新たな表現形式の「あいだ」にあるオペラ現代演出のあり方についての抄訳を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2023年度は2作品程度の分析および考察にとどまる予定であったが、4作品の分析まで進めることができ、その成果を国際会議や学術誌で発表した。ただし、本来2023年度中に着手する予定であった作品については準備が整わず実施できなかったため、来年度以降の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年8月に中国・青島で開催される国際会議「アジアゲルマニスト会議(AGT)」にて、細川俊夫の新作オペラ《ナターシャ》(2025年8月初演予定)の台本(多和田葉子による)を対象として、言葉から紡ぎ出される「あいだ」の諸相について口頭発表することが内定している。2025年1月には、早稲田大学オペラ/音楽劇研究所が開催する研究発表会にて口頭発表することが決定している。そこでは、ハヤ・チェルノヴィンの『ハート・チェンバー』(2019)、あるいはマーク・アンドレの『ヴンダーツァイヒェン Wunderzaichen』(2014)を分析対象として取り上げ、主に作曲美学の観点から「あいだ」の諸相について研究成果を発表する予定である。
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Causes of Carryover |
海外から研究者を招聘して研究会を開催する予定であったが、都合が合わず延期したため、次年度使用額が生じた。引き続きスケジュール調整を試み、招聘が実現すればそのための諸費用に充てる予定である。
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Research Products
(7 results)