2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K00160
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂口 愛子 (藏田愛子) 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (40843024)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 植物画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治大正昭和期の植物写生に自然科学的な視点がいかに導入され、紙上に表現されているのかを探求することにより、「植物学」と「美術」の二分野を背景に、近代日本の植物画が科学的な要素をもつ植物写生として成立・展開してきた様相の解明を目的とする。当該年度は、東京大学所蔵植物画の継続的な調査を進めながら、とくに美術と植物の交流に関する資料調査を行い、明治後半期から大正期にかけての美術展覧会と植物の関わりを考察した。 東京大学所蔵植物画の調査に関しては、植物画目録製作に向けた準備として、植物画の表面と裏面の写真撮影を行い、表裏面に書き込まれた文字の解読を続けている。 美術と植物の交流に関する当該年度の研究実績の一つは、牧野富太郎による植物描写評の検討である。牧野富太郎は1909年頃から1920年頃にかけて、文展出品作品の植物の描かれ方を詳細に批評している。牧野が新聞雑誌等に発表した美術展覧会出品作に対する植物描写評を手がかりに、絵画の背景やモチーフとして植物や自然景があらわされる場合、牧野が植物のあらわし方をどのように見ていたのかを考察した。当該年度のもう一つの研究実績は、明治後半期から大正期にかけての美術展覧会への植物配置に関する考察である。1907年に始まった文展の初期の会場写真には、日本画、西洋画、彫刻の各陳列室に鉢植えの植物が写り込んでいる場合がみられる。また、別の事例として、大正期には彫刻と植物を組み合わせた東台彫塑会の展覧会をあげることができる。当該研究では、明治大正期の美術展覧会に配された植物を手がかりに、「美術」と「植物」の関わり合いの一端を考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東京大学所蔵植物画の調査に関しては、植物画の表裏面に書き込まれた文字の解読にやや時間を要している。明治期に刊行された『帝国大学理科大学植物標品目録』(1886年)や『帝国大学植物園植物目録』(1887年)等を参照しながら、正確な解読に一層努める必要がある。一方で、美術と植物の交流に関する資料調査について、国立国会図書館デジタルコレクションや図書雑誌を閲覧しながら、明治大正期の美術展覧会における植物学者や植物の介在を調べることができたことから、当該年度の研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
東京大学所蔵植物画の調査に関しては、植物画の配列や植物名を植物分類学分野の専門家の助言を仰ぎながら、目録製作に向けた準備を一層進めていく予定である。美術と植物の交流に関する資料調査として、今後は、洋画家や図案家による植物図譜制作の経緯と意図についての考察を進める予定である。『群芳図譜』や『非水百花譜』等の鑑賞性の高い植物図譜を対象に、美術家による植物学や植物図譜への接近について考察を深めたい。また、明治大正昭和期の美術、工芸、印刷、写真の分野において、植物写生や図鑑原画制作等の植物画制作に関するどのような出来事や動きがあったのかを調べる予定である。植物学や周辺分野における植物画制作の動向を調べ、美術と植物学の関連を示す年表を作成する。美術動向と学問動向を時系列に併記することにより、植物画制作における両分野の密接な交わりを検討していく。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額、及び、翌年度分として請求した助成金により、6月から8月にかけて国内の植物画調査出張と行う計画である。
|