2022 Fiscal Year Research-status Report
Reconsiderations on the role of dilettanti in Roman Art World of the seventeenth century
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22K00193
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
浦上 雅司 福岡大学, 人文学部, 教授 (60185080)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 17世紀ローマ美術 / 近世美術と市場 / 画家と購買層 / アートワールド / ローマ美術界 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の基本的課題は、17世紀初頭のローマにおける美術愛好家の位置を、当時のローマにおける経済・社会・文化的な総合的状況の中で再検討するというものである。 令和4年度も、令和5年3月にいたるまで、海外出張は、出入国時におけるコロナワクチン接種証明の提示やPCR検査を受けて陰性を証明することなど、厳しい制約を受けており、大学の通常業務を遂行しながら、ある程度まとまった期間を確保し、有意義な海外出張調査を行うことは困難であった。 このため、当初は、福岡で入手できる文献資料によって研究を進めることを余儀なくされたが、研究者はこの状況を活用し、狭義の美術史にとどまらず、当該時期のローマの経済・社会・文化史研究の主要文献を詳細に読解し、17世紀ローマの社会・文化・経済的状況を総体として理解することを目指した。ドリュモーの17世紀ローマ経済史、ウルバヌス8世治下のローマの政治状況を論じたヌースドルファーの著作、17世紀ローマ支配層の経済的・文化的特質を論じたシュミットの著作など、いずれも狭義の「美術の歴史」とは直接関わらないが、これらの著作を通じて、美術作品の制作者、販売者、仲介業者、購買者、批評家などの総体として成立する17世紀ローマ「美術世界(Artworld)」の特質を多角的に理解する上で重要な知見を多く獲得することができた。 福岡大学では例年、3月は大学の業務が少なく、教育職員にとってまとまった時間をとれる喜ばしい時期だが、令和5年3月になって海外旅行の制限が大幅に緩和されたこともあり、3年ぶりに海外出張(ニューヨーク、ワシントン)を行った。市民と美術の関わりなど、米国におけるアートワールドの多様性について、現地で調査せずにはわからない知見を多く得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度もコロナ禍が継続して始まり、海外出張はいつ可能になるのか不明だった。このため、本研究は、さしあたって入手可能な文献資料を渉猟し、それによって17世紀初頭の「ローマ美術界」の特質を多角的に検討することになった。幸い、この時期のローマについては狭義の美術史にとどまらず、社会史、経済史、政治史的な研究成果も少なからずあり、それら資料を入手して解読することによってローマ美術界の有様についてより深い理解が可能になった。
研究者はまた、令和元年からこの時期のローマにおける庶民と美術との関係についても研究を進めており、その研究成果も「ローマ美術界」の総体としての理解に活かすことができた。
本格的な海外調査を行うことが令和5年3月まで行えなかったのは残念だが、本年度の研究成果を踏まえ、令和5年度から海外調査も含めてより効果的な研究を進められると予想している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の通り。
1)今後も、狭義の美術史に関わるものに留まらず、17世紀ローマの社会・文化・経済的状況を扱った文献も渉猟し、17世紀ローマ美術界の総合的理解を目指す。 2)社会文化史的考察が進んでいる同時期のオランダ美術界を扱った著作にも目を通し、比較検討することによって17世紀ローマ美術界の特質を明らかにする。 3)マンチーニはもちろん、バリオーネやベッローリその他の著者による17世紀ローマ美術界に関する同時代著作によって、当時のローマに暮らしていた多様な社会層の人々が、それぞれどのように美術と関わっていたかを考察する。 4)今後は少なくとも毎年一度は海外調査を行い、具体的な事例を実見によって検討し、同時代文献による考察の成果と照らし合わせて、17世紀ローマの「美術鑑賞」の有様を明らかにし、その中でマンチーニなど美術批評家が果たした役割について多角的に考察し、その実情を明らかにする。
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Causes of Carryover |
令和4年度は令和5年3月にいたるまで海外出張が厳しく制限されていたので、当初予定していたような海外調査が行えなった。令和5年3月になって出入国の制限が緩和され、また米国での入国審査も緩和されたので、3年ぶりに海外調査を行うことができた。 令和4年度の最後まで海外調査が制約されていたため次年度使用額が生じたが、令和5年度からは海外調査がより自由に行える事になるはずで、そのための予算として、この資金を有効に活用する予定である。
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