2022 Fiscal Year Research-status Report
奄美における民俗芸能文化の〈メディア媒介な展開〉と持続可能な世代継承に関する研究
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22K00218
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
加藤 晴明 中京大学, 現代社会学部, 教授 (10177462)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久万田 晋 沖縄県立芸術大学, 芸術文化研究所, 教授 (30215024)
川田 牧人 成城大学, 文芸学部, 教授 (30260110)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地域文化 / 地域メディア / 民俗芸能 / 文化生産 / 世代継承 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は奄美の民俗芸能文化が〈メディア媒介的な展開〉を遂げることで、次世代につながる創造的継承が可能になってきていることを、うた文化・余興文化に焦点を当てて研究することにある。2022年度の調査研究は、3年間の研究期間の初年度にあたるが、研究自体はこれまでの幾度かの科研研究を踏まえて、その発展的な拡張・深化として進められている。 研究実績は、初年度ということもあり、これまでの①科研研究の蓄積をより発展させたまとめと、②世代継承に焦点を当てた今回の研究の領域にまたがっている。①に関しては、奄美島唄文化についての論考としてうたの社会史を網羅的に整理した。この整理のために、過去の大会に関する新聞記事を網羅的に整理するとともに、世代を超えた文化継承のためのメディアイベント事業を担ってきた当事者に取材することで、うたの社会史の全容を描くことができた。この整理により、今回の中心的な研究課題である、どこからどこに文化が世代継承されていくのかの時間軸を設定することができた。 また、民俗芸能文化の世代継承にあたっては、島唄教室という対人的な関係だけではなく、今日では録音メディアが重要な機能を果たしている。その録音メディアの社会史もまとめることができた(脱稿しており発行は、2023年度になる)。 余興文化に関する研究調査も、①集落の生活に根ざした余興芸の姿を再発見するとともに、②新しい担い手へのライフストーリーへ取材を通じて現代的な余興の担い手の意識の深層を解明しつつある(学会発表済み)。素人である市井の人が、素人芸人として島で評価されるプロセスは、民俗芸能の現代的な創造的継承のかたちであり、そのプロセスを解明することで基層文化と現代文化の連続性を描くことができつつある。また、余興のメディア化によって、人びとの生活文化の享受が共感から共歓へと質的転換していく実態も徐々に解明されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究スタート時の4月に全体ミィーティング(オンライン)を行い、それ以後、それぞれ以下のような進捗状況にある。 【論考のまとめ】文化生産論の視点から奄美島唄の〈メディア媒介的展開〉の全容を解き明かす研究を、これまでの科研研究を引き継いで、「大会の社会史」というより総合的なかたちでまとめた。。2022年の論考は「大会」研究の3本目にあたる。また録音メディア化については、すでに脱稿して印刷待ちの段階にある。 【フィールド取材】現地調査では島唄文化がどこからどこに向かうのかを軸に2方面から研究を続けている。①生活の中で営まれていた民俗芸能(どこから)の姿について古老へのライフストーリー取材を通じて、島唄の元の姿の再構成に努めている。②さらに、録音メディアの担い手として重要な役割を果たして地元の音楽プロデューサーに取材し、〈メディア媒介的展開〉の具体的なプロセスを解明した。③現在世代継承の最前線で活躍している教室指導者たちへの取材を始めている。具体的には民謡協会の事務局長などの中核的な担い手と現在の奄美で最も若い指導者、また全国大会で優勝した島唄教室生徒(中学生)などである。これからの担い手が、いかなるミッションをもちながら、どこに向かって島唄文化を創造的に継承していこうとしているのかの解明を試みている。また、民俗文化の新しい継承の形としてクラシックとの融合化を試みている音楽イベントを2つ取材した。過去の映像データなどの収集も進めた。 余興文化については、島内の有名芸人へのライフスリートー取材を開始した。ある素人がどのようにしてローカルな有名芸人になるのかを内在的に解き明かす試みを続けている。さらにかつて集落の中いる素人芸人集団などの発見に努めている。これにより、余興グランプリというメディアイベント(現代的継承の姿)の背後にある、島の余興文化の基層に分け入る研究を始めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題は、2022年度から始まった文化の担い手の研究を2つの方向で進めていくことにある。 【奄美島唄の創造的継承のモデル化】文化生産論をもとに進めてきた研究を、改めてひとつの著作としてまとめ、民俗芸能文化の創造的継承のモデルを提起する。 【先行世代の調査】継承元になるシマ(集落)の生活の中にあった島唄と余興の世界を掘り起こし再構成する調査をさらに進める。奄美のシマ(集落)文化の担い手はすでにかなり高齢している。有名な唄者の多くは故人となっているが、まだ島の都市である名瀬から遠方の集落には、かつてのシマの暮らしを担ってきた唄者や余興の達人たちが生活している。そうした担い手を掘り起こしてライフストーリーを進めたい。 【継承世代の調査】島唄・余興ともにメディアイベントの「顔」のようなスターたちが次々に現れている。そうした新しい担い手への取材を続けていく。個人的に島唄を楽しんでいるだけではなく、自覚的にミッションをもって島唄を次の世代に繋いでいくことを意識してている唄者たちを掘り起こし取材したい。 【文化の拡張(創造的継承)の調査】民俗文化の継承は、固形的伝承ではなく、領域の拡張・融合をともないつつ創造的に継承されていく。①そのひとつが、島唄のはゎ「音楽」への昇華の試みである。古い島唄を大切にしつつ、ポピュラー音楽的な要素を取り入れながら、新しい音楽として外に向けて発信していく試みが出てきている。そうしたメディアコンテンツ自体の収集と担い手の語りの研究も進めていく。②また、クラシックとの融合も始まっている。すでに奄美出身の音楽家によって交響詩譚「ベルスーズ奄美」という作品が繰り返し上演されておりその経緯も創造的継承の姿として記録に残す必要がある。また、昨年度からは、奄美管弦楽団が結成され島唄との新しい融合が始まっている。こうした新しい展開の資料も収集しておきたい。
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Causes of Carryover |
・コロナ禍が続いていたため、奄美の現地調査が十分に実施できなかった。とりわけ、分担者の一人は沖縄に在住・在勤しており、島外に出るタイミング設定が難しかった事情があった。 ・次年度は、奄美での共同研究ミィーティングなども予定しており、頻繁に奄美に行く予定であり、旅費として助成金を使用する予定である。 ・コロナも落ち着きに伴い教育・研究環境も平常状態となってきたことから、次年度では、改めて民俗芸能資料の収集や整理に助成金を使用する予定である。
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Research Products
(9 results)