2022 Fiscal Year Research-status Report
柳川流三味線組歌復原のための古楽譜解読の一試案と復原演奏研究
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22K00241
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
井口 はる菜 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60770120)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 三味線音楽 / 地歌 / 三味線組歌 / 古楽譜 / 復原演奏 / 柳川三味線 / 柳川流 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度はまず、柳川流三味線組歌の古楽譜で口三味線を記した『五線録』『柳川流本手組大意全書』『三絃独譜』(以上写本)と、これらとは異なる記譜法によって三味線と歌の譜を併記している『弦曲大榛抄』(刊本)に収録されている表組《浮世組》の楽譜を解読することを最優先し、その解釈を現行の家庭式楽譜の様式にある程度翻譜した。11月以降、月に1乃至2回程度の研究会を開き、その楽譜をもとに楽曲としての音の運びや緩急、間の取り方などについて、柳川三味線の演奏家の研究協力を仰ぎながら吟味して現行楽譜化する作業に取りかかった。記譜の方法については、現行する柳川流三味線組歌の中で《浮世組》と同じ表組に分類される《飛騨組》の楽譜や科研費課題番号16K02257「三味線組歌の楽譜資料の研究ー京都府立総合資料館所蔵の資料を中心にー」(研究代表者:井口はる菜)の復原曲の記譜法を参考にして研究を進めた。歌の旋律については、16K02257の研究時とは異なり、『弦曲大榛抄』に歌の音程や声を伸ばす長さ等の指示が明記されているので、問題なく翻譜作業を進めることが出来た。また、2023年度中に復原演奏を発表出来るように目標を定め、《浮世組》の現行楽譜化を急ぐことにした。具体的には、研究協力者が2023年9月に開催を予定されている社中の「地歌・箏曲演奏会」において、門下生約30名とともに今回の復原曲を披露演奏することを計画しており、出演予定者各人に一日も早く復原曲の稽古を開始していていただけるよう、2022年度中に現行楽譜化した。その楽譜をもとに門下生に指導していただき、9月の舞台で演奏発表ができる準備を整えているところである。同じく本研究で復原を予定している《七つ子》全編と、《七つ子》へ演奏を繋げるための《浮世組》末尾の楽譜の解読・翻譜作業については、時間の都合上次年度に取りかかる予定をしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、三味線組歌の古楽譜である①『五線録』②『柳川流本手組大意全書』③『三絃独譜』④『弦曲大榛抄』をそれぞれ精読し、表組《浮世組》と中免《七つ子》を現行の家庭式楽譜に書き改めて整理、現在の演奏者が柳川三味線で演奏できるものに復原することを第一段階と考え、国立国会図書館、東京藝術大学附属図書館所蔵の『弦曲大榛抄』《浮世組》の確認から取りかかった。本研究で取り扱う古楽譜は、《浮世組》が①②③④全てに収録されている一方で、《七つ子》は①②③のみという違いがあるため、2022年度はまず《浮世組》の解読・翻譜を最優先とした。口三味線の写本である①②③から解読した内容と、枡目を使った記譜法で記されている版本の④から解読した内容とを研究代表者がそれぞれ現行楽譜化して照合し、両者の異なる箇所については復原演奏でどちらの記譜を採用するか、その都度研究協力者と検討を重ねた。ただ今回の復原作業においては、上記④にのみ歌の旋律が記されており、歌に関しては全面的に④からの復原となるため、三味線の手の復原に関して①②③の記譜と異なる場合には基本的に歌に合わせて④を参考にした箇所が多い。また、歌の旋律は古楽譜に記されている通りに翻譜しているため、柳川流の節付けを正確に復原できるものと考えられる。家庭式楽譜への記譜法については、柳川流三味線組歌を伝承している研究協力者が使用している現行の《飛騨組》の楽譜に同様の手の類型がある場合には、その記譜法を参考に翻譜作業をおこなった。このように翻譜した楽譜は、2023年9月に開催予定の演奏会の出演者に対して一斉に稽古を開始してもらうため、「『弦曲大榛抄』『五線録』『三絃独譜』『柳川流本手組大意全書』より復原 柳川流三味線組歌 表組第七曲 浮世組」として演奏発表用の家庭式楽譜にまとめて作成し、年度内に印刷製本するまでに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、《浮世組》の復原演奏発表が第一の目標であるが、《七つ子》の復原作業を進め、《浮世組》《七つ子》両曲それぞれの単独演奏と、《浮世組》第六歌の結句を省いて《七つ子》を続けて演奏する《浮世組・七つ子》の演奏の3パターンの演奏が可能となるように復原曲の完成を目指し、家庭式楽譜の作成と演奏研究をおこなう。具体的には、《七つ子》を収録する古楽譜には歌の旋律は記されていないため、まず口三味線から三味線の手を解読・翻譜し、その手と、現行する野川流《七つ子》の歌も参考にしながら歌の旋律を探らなければならず、野川流菊筋・富筋の音源と現行の楽譜を手がかりとして研究を進め、復原曲の完成を目指す予定である。また、『五線録』『三絃独譜』『柳川流本手組大意全書』の諸本間での異同が見つかった場合には、その情報を整理してまとめておく。《七つ子》の解読・翻譜作業がある程度進んだ段階で、《浮世組・七つ子》の接続部分の三味線の手についても解読し、吟味しなければならない。その部分については、古楽譜諸本の《七つ子》に前後して《浮世組》第五歌後半「なるかならぬか」以降の手が書き添えられており、それは『松の葉』第一巻「秘曲相傳之次第」《七つ子》において「この曲は浮世組をさきへ弾きその跡にて弾く也」と記される内容と通じる。現在野川流富筋に伝承される《七つ子》の冒頭に《浮世組》の歌詞「ちょうど打つ」が付いていることが確認されるとは言うものの、実際にこの2曲をどのように連続して演奏するのかは明らかではないため、本研究で明らかにしたいと考えている。解読譜の五線譜化については、研究協力者の協力を得て2024年度にかけて作業を進める予定をしており、前年度にある程度復原が進展している《浮世組》から着手し、復原の進展次第、《七つ子》及び《浮世組・七つ子》の接続部分も同様に五線譜化を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2022年度は楽曲の復原作業が最優先であるため、復原に必要な資料(古楽譜の文献複写)と復原作業に使用する和紙胴の柳川三味線の入手を急ぎ、復原作業に時間を多く費やした。初年度の実際の研究活動は研究代表者一人でコツコツと古楽譜を精読する地味な楽曲復原作業がほとんどで、その他費目で使用した一部は研究計画では物品費として計上していた三味線の和紙張り代や三味線調整費であり、物品費からそれらを差し引いた前年度未使用額は、次年度において復原曲の録音やそのデータ保存に必要な機器などの物品の購入に使用するほか、楽曲復原作業及び復原演奏発表のための研究会の回数が当初の計画よりも増えることが見込まれ、更に復原曲の五線譜化作業における研究協力者への人件費にも充てて研究を進展させたいと考えている。また、研究計画では最終年度に演奏発表を開催する予定だったが、まず次年度に《浮世組》を発表し、可能ならば最終年度に《浮世組・七つ子》を発表出来ればと考えているため、そうした演奏発表に関連する費用にも充てたい。
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