2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K00266
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
原 塑 東北大学, 文学研究科, 准教授 (70463891)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 欠如モデル / アリストテレス / 『弁論術』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では科学コミュニケーションにおける市民参加を正当化するための原理の一つである民主主義の原理(つまり市民参加は民主主義的であるから、民主主義社会では望ましいとする見方)を取り上げ、それが妥当かどうか、また妥当する場合、その条件は何かを明らかにすることを目標にする。そのために分析する具体的事例は、東日本大震災と新型コロナウイルス感染症への科学者集団の対応とそれへの市民の態度である。 今年度は、科学コミュニケーション論において、民主主義の原理を正当化する上で、批判されるべき見方として定着している欠如モデルを取り上げ、一方向コミュニケーションが失敗するのは、科学者が欠如モデルから逃れられないからだ、とする説の妥当性を検討した。欠如モデルとは、一般の人々が科学者や科学を信頼しないのは科学的知識が欠如しているためであり、一般の人々に対して科学的知識を与えれば、科学者や科学を信頼するようになるだろう、とするか科学者の偏見のことである。この見解の妥当性を明らかにするためのコミュニケーションのメタ理論として、アリストテレスが『弁論術』で定式化した、レトリック論を用いることにした。アリストテレスのレトリック論では、演説が持つ説得力の決定要因は、演説内容のロゴス(論理性)と、演説者が身につけ、演説の中で表明するエートス(人柄・思考傾向)、それから演説によって聞き手に喚起されるパトス(感情)である。欠如モデルは、この中のエートスに分類される。ここで、エートスとしての欠如モデルは、科学コミュニケーションの成否にとって、中立的、つまり特に有害であるわけではない、と考えられる。このことを、2023年10月に弘前大学で開催された東北哲学会第73回大会のシンポジウム「アリストテレスと現代」において、「アリストテレスの『弁論術』と科学コミュニケーション」というタイトルで、発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
欠如モデル批判は、科学コミュニケーション論では、民主主義の原理を支える、もっとも有力な根拠であるとみなされてきた。しかし、2023年度の研究によって、その根拠の不確かさが明らかとなり、その意味で、研究上、大きな進捗が見られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
欠如モデルの歴史的形成過程を調査し、その過ちを明らかにする。
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Causes of Carryover |
手持ちの研究資料によって研究を推進することができ、資料を購入する必要がなかったため。
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