2023 Fiscal Year Research-status Report
Revisiting the Knowledge Framework of Mental Disorder: Domain Pluralism and Interactive Model
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22K00268
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石原 孝二 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30291991)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | PTMF(パワー、脅威、意味のフレームワーク) / 人権モデル / メンタルヘルスケアの社会化 / 批判的精神医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、ヤスパースやドゥヴルーの議論に即して領域的多元主義を特徴づけたが、本年度は、PTMF(パワー、脅威、意味のフレームワーク)や人権モデルの検討を行った。PTMFは、心理的な苦悩や厄介な行動等を状況への心理的反応として捉える点において、アドルフ・マイヤーやオープンダイアローグの非生物学主義的な考え方一般と共通する点があるが、社会的要因を強調し、まさに「パワー」の問題に焦点を当てることにその特徴がある。これまでの精神科医療や心理臨床に対する批判は、主に医療化・心理化という文脈において行われてきたが、近年は、メンタルヘルスケアの専門的なサービス提供のあり方として、より社会的な側面を強調する動きがみられる。WHOによる、「人権モデル」にもとづくメンタルヘルスケアの促進もそうした動きの一つである。本研究では、こうしたWHOの動きやPTMFのプロジェクトを「メンタルヘルスケアの社会化」として特徴づけることを試みた。 本年度はまた批判的精神医学や、向精神薬と精神疾患概念の関係に関する検討も進めた。向精神薬に関する批判的な研究で有名であり、批判的精神医学の代表的な研究者の1人であるジョアンナ・モンクリフ教授(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)を招へいし、モンクリフ教授を中心としたシンポジウム「精神科の薬を問い直す―薬を使うこと、やめることに関して知っておいてほしいこと」を開催した。本シンポジウムには、(当日のみで)会場・オンラインあわせて約600名が参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、精神疾患に関する「領域多元主義」を批判し、精神疾患の概念や診断・治療思想を問い直すことを目的としている。PTMFや人権モデルは、領域多元主義の基盤ともなっている生物・心理・社会モデルとは異なる枠組みで心理的な苦悩をとらえようとするものであり、本年度は「メンタルヘルスケアの社会化」という視点から、PTMFや人権モデルを捉えなおし、論文としてまとめた。また、批判的精神医学の検討を進めたほか、精神科疫学の精神疾患概念への影響の検討にも着手した。概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は精神科疫学と向精神薬に関する研究がそれぞれ精神疾患の捉え方に対してどのような影響を与えてきたのかを考察し、精神疾患の捉え方に関する「相互作用モデル」の検討を進める。また批判的精神医学や人権モデルのさらなる検討も進める。
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Causes of Carryover |
海外招へい旅費を含む旅費と図書購入費を想定よりも低く抑えることができたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、海外研究者への講演謝金や図書購入費として使用する。
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