2022 Fiscal Year Research-status Report
アッバース朝でのギリシア科学への関心の勃興とは:ハバシュのズィージュを手掛かりに
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22K00269
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三村 太郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50782132)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イスラーム科学 / アッバース朝 / ズィージュ / ハバシュ |
Outline of Annual Research Achievements |
ギリシア科学成立後、ヨーロッパが台頭するまで、イスラーム文化圏がギリシア科学を受容し、それに基づいて科学研究活動の最先端を担っていたことが知られている。そのイスラーム文化圏でのギリシア科学への関心はアッバース朝七代目カリフ・マームーン(在位813~833年)の頃に始まったことは明白である一方、なぜマームーン期にギリシア科学に関心が高まったのかはいまだ詳らかとなっていない。そこで本研究では、「なぜマームーン期にギリシア科学への関心が高まったのか」という問いに挑む。この問いに答えるために、マームーン期の科学書群を総覧すると、ギリシア科学を意識的に採用した文献が現存していることに気づく。すなわちマームーン期の天文学者・占星術師であるハバシュ(869年以降没)によって編まれたズィージュ(天文学ハンドブック)である。実際、本ズィージュには序文が付せられており、そこにおいて著者ハバシュが明確にプトレマイオス天文学の採用を表明している。ハバシュのズィージュのアラビア語本文は未公刊なので、本研究ではその本文校訂と英訳に取り組み、それをふまえて本研究の問いに答えることを目指す。一年目は、入手済みのハバシュのズィージュのアラビア語写本二つを校訂し、そのアラビア語本文の確定を行った。本作品は、イスタンブール写本で150フォリオにも及ぶことからもわかるように大部なものなので、本文の校訂作業に一年は要すると予想されていたが、本年度ではその入力の大半を終えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目は、入手済みのハバシュのズィージュのアラビア語写本二つを校訂し、そのアラビア語本文の確定を行ってきた。本作品は、イスタンブール写本で150フォリオにも及ぶことからもわかるように大部なものなので、本文の校訂作業に一年は要すると予想されていた。残念ながらその入力を完了できなかったが、本年度ではその入力の大半を終えることができたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、一年目に続けてハバシュのズィージュのアラビア語本文確定の作業を行い、そのズィージュの内容を分析する。その過程で、本ズィージュの英訳を行う。また、一年目と二年目をかけて本ズィージュ全文を校訂・英訳するとともに、ハバシュと同時代の科学の担い手たちの科学作品を収録した写本を可能な限り収集し、マームーン期の学者たちの間での天文学者・占星術師ハバシュの位置づけを明確にすることを目指す。 三年目は、一年目と二年目の作業をふまえて、マームーン期に登場したハバシュのズィージュがなぜそのズィージュでギリシア天文学を採用し、どのようにギリシア天文学の方法論を組み込んでいったのかを考察する。そうすることで、本研究の問い「なぜマームーン期にギリシア科学への関心が高まったのか」に答えたい。
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Causes of Carryover |
いくつかの国際会議がウェブ開催となったため。
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Research Products
(11 results)