2023 Fiscal Year Research-status Report
中世末期から近世における鷹書と放鷹文化の“再創生”を解明する研究
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22K00323
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Research Institution | The University of Nagano |
Principal Investigator |
二本松 泰子 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 教授 (30449532)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 鷹書 / 放鷹文化 / 鷹狩り / 馬術書 |
Outline of Annual Research Achievements |
中世末期から近世における日本の鷹狩りは、鷹書を軸にして多様な文化事象が展開する芸道であった。このように、関連する書物(伝書)によって芸道のアイデンティティと新たな文化事象が創出されるという現象は、鷹狩りに限るものではない。実は、中世末期以降の各種諸芸道に散見されるものである。 なかでも流鏑馬・牛追物・犬追物などの馬術系の武芸には、その現象が顕著に見出される。2023年度は、これらの武芸と伝書との関係性について注目し、その実相に関する調査を中心に進めた。具体的には、近世中期以降に隆盛した大坪流の馬術書について取り上げ、現存するテキスト群を調査した。そのうち、流鏑馬・犬追物・牛追物に関する伝書には、中世における当該武芸の伝統を再生しようとする記述が数多く確認でき、その執筆の姿勢には祢津流や吉田流の鷹書と一脈通じる傾向のあることが判明した。このような成果によって、中世末期以降の鷹書と放鷹文化の再創生における相対的な独自性や類型性の一端を明らかにすることができた。 その他にも、中世に成立した軍記物語やお伽草子といった文芸作品と鷹書の言説が交錯する事例について検証した。それによって、中世の文芸作品と鷹書が相互に影響関係を有している実相が明らかになった。それを踏まえて、近世以降の鷹書が芸道の伝統性を再創生するために、こういった中世の文芸作品を主要なモチーフとして利用した経緯についてもアプローチできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
馬術書という新たな視点から、鷹狩りの文化的な再創生に関与した鷹書との比較を行い、それぞれについて相対的な特徴を明らかにすることができた。 また、日本の馬術書が有する“中国・朝鮮武芸の影響”や“獣医学との関連性”の解明についても着手することができた。その考察を通して、鷹書もまた、そういった幅広い文化事象と深く関わっている可能性のあることを確認した。 以上のような成果は、本研究の推進において有用であることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、馬術書が有する“中国・朝鮮武芸の影響”及び“獣医学との関連性”についての考察を深化させる。具体的には、北京大学図書館・中国国家図書館および韓国国立中央図書館・ソウル大学校奎章閣に所蔵されている前近代の馬術書群の調査を実施する。 次に、薩摩藩主・島津家は犬追物をお家芸としていたことに注目する。鹿児島市の尚古集成館には、島津家伝来の犬追物関係資料が610点所蔵されている。ただし、当館の本館が2022年5月から耐震・リニューアル工事していたため、これまで当該資料の閲覧が叶わなかった。2024年9月に工事が完成予定であることから、可能であれば当館所蔵の犬追物関係資料(島津家伝来)の悉皆調査を実施したい。 以上のような馬術書関係の調査を踏まえて、中世末期以降の鷹書と放鷹文化の実相との比較検討を進めてゆく。
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Causes of Carryover |
当初、2023年度中に尚古集成館(鹿児島県鹿児島市))および韓国国立中央図書館・ソウル大学校奎章閣(大韓民国・ソウル特別市)に武芸関連の伝書群を調査する予定であった。しかし、前者はリニューアル工事中であるために閲覧そのものが叶わず、後者はまとまった調査日数を確保することが困難であったために実現できなかった。その結果、当該年度は旅費を執行することなく年度末に至った。それに伴い、調査先で支払う予定だった人件費・謝金も予算額を下回った。それらを次年度の使用に回すことにした。 2024年度は当初計画していた回数よりも多くの国内外の調査を実施する予定である。それによって、翌年度分として請求した助成金とともに次年度使用分を執行してゆく。
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