2022 Fiscal Year Research-status Report
日本植民地期の台湾におけるハンセン病文学に関する発展的研究
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22K00360
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
星名 宏修 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00284943)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 植民地 / ハンセン病 / 台湾 / 楽生院 / 『万寿果』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本植民地統治下の台湾で創作されたハンセン病患者の文学創作を論じた「日本植民地期の台湾におけるハンセン病文学に関する基礎的研究」(課題番号18K00347)を基礎として、さらにそれを発展的に研究することを目的としている。 具体的には台湾のテクストをそれ単独で扱うのではなく、同時代の「内地」の療養所の動向を視野に入れることで、植民地で創作された作品群を「帝国」規模のハンセン病文学の一環として考えようというものである。 2022年度は、台湾の療養所である楽生院で刊行されていた雑誌『万寿果』の復刊が大きな仕事となった。そのなかで不二出版から刊行された復刻版に、『万寿果』に関する長文の解説を書いた。植民地期のハンセン病研究の最重要の資料であるにもかかわらず、『万寿果』は台湾各地の図書館でほとんど所蔵されず、総督府図書館の後身である台湾図書館にも欠号が多い。そのため従来は利用可能な1930年代の雑誌のみで、植民地期のハンセン病が論じられてきた。今回の復刻にあたっては、長島愛生園が所蔵している資料の提供を受けたが、これによって1940年代の『万寿果』まで容易にアクセスできるようになった。 この復刻によって、植民地台湾だけでなく日本帝国全体のハンセン病政策や、各療養所での文学創作を読み直すことが可能になったこのと意義は大きい。 『万寿果』復刻以外に発表した研究論文は、1940年代に『万寿果』の編集に携わったハンセン病者である青山純三が帝国各地の療養所に残した足跡と、その文学を論じた「帝国を移動する―癩者・青山純三の軌跡とその文学―」を中国文芸研究会の機関誌『野草』第110号に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、研究の初年度となる2022年度は、植民地台湾の楽生院から多くの引揚者が入所した沖縄愛楽園と、戦前からのハンセン病関連の貴重な資料を数多く収蔵している長島愛生園に出張し、調査を行う予定であった。 しかし新型コロナのために出張のタイミングを逸してしまったことと、台湾の療養所で刊行されていた『万寿果』の復刊に携わることになったこともあり、予定していた出張調査は実施できなかった。しかし東村山にある国立ハンセン病資料館にしばしば足を運ぶことで、その不足分を補うようつとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究は、台湾での文学活動を相対化するために、全生病院や長島愛生園、九州療養所(菊池恵楓園の前身)など、戦前から文学活動が盛んだった療養所における文学活動に着目し、実施する。具体的には療養所を横断して開催された「文芸特輯」という懸賞文学に関して資料を集め、論文を執筆する予定である。 また新型コロナの扱いが変更されることになり、遠方への出張もこの数年よりも容易になる見込みである。可能であれば台湾からの引き上げ患者を数多く収容した、沖縄愛楽園での資料調査を行いたい。もし予定通りに行かない場合は、ハンセン病資料館が所蔵する『愛楽』など、機関誌の分析が中心となる。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響で、予定していた出張に行くことができなかったため。出張で得られなかった資料は、国立ハンセン病資料館で可能な限り補うように努力した。今年度は沖縄愛楽園での調査を予定しているが、コロナの再流行によっては資料館の資料活用を余儀なくされるかもしれない。
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