2023 Fiscal Year Research-status Report
翻訳文学から辿る日中「近代」の新研究―魯迅周作人編『現代日本小説集』を基礎として
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22K00364
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
秋吉 收 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (90275438)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 中国近代文学 / 日本の近代文学 / 魯迅 / 周作人 / 近代文学における日中交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
この年における本研究の実績としては、以下、3冊の共著書における分担執筆、1篇の学術論文執筆、並びに2回の国際学会における研究発表を行った。「魯迅与北京星星文学社『文学週刊』―以周霊均『刪詩』為線索」(『魯迅与現代文化価値重建 紀念魯迅140周年誕辰論文選集』(全3巻)、2023年5月、北岳文芸出版社(太原)刊)は、魯迅と「創造社」作家成ホウ吾の関係について、従来看過されてきた稀少雑誌『文学週刊』を端緒に新たな知見を提示したことが評価され、該書への招聘執筆へと結実した。「現代中国対日本大正文壇的訳介与接受─芥川龍之介和周氏兄弟為中心」(『国別区域視閾下的百年変局與東亜合作』、2023年5月、山東大学出版社(済南)刊)は、山東大学を中心とした国際学会での発表論題をもとに日本と中国の近代文学の接点特に芥川と魯迅周作人兄弟の関係について詳述したもので、高い評価を得た。「魯迅、周作人兄弟による日本文学の翻訳について―『現代日本小説集』(上海商務印書館、一九二三年)に注目して」は、中国最初の日本近代文学アンソロジーたる『現代日本小説集』と中国近代文学との関係を、収録作周辺を丹念に繙く作業を通じて、特に魯迅の散文詩集『野草』等との実際の影響関係を発見したもので、日本の近代文学が中国文壇に与えた影響の深さを改めて確認することになった。長堀祐造氏との共著「制作魯迅“石膏面模”的牙科医生奥田杏花(愛三)的人物像―奥田杏花之子奥田昇夫婦訪問記」(『魯迅研究月刊』2023年第12期、2023年12月)は、当時上海で魯迅の逝去に立ち会いそのデスマスクを取った、魯迅と関係を有する最後の日本人たる歯科医師奥田杏花(本名、愛三)について、その経歴や人となりを初めて明らかにしたもので、中国における最も高位の魯迅研究誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3冊の共著書における分担執筆3篇、学術論文1篇、国際学会における研究発表2回と、当該研究に関して、一定の成果を提出できたことは認められよう。ただ現在、中国への渡航はビザの取得が必要となってしまっており、また国際関係の緊張により、現地での研究調査が思うように進まない状況が顕在している。その分、日本国内の調査により力を注いだが、いまだ十分でない側面も否定できない。次年度以降にはより活発に探索を進め、従来の研究における欠如を補いまた新たな見地を多く提示していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究に引き続き、『現代日本小説集』に収録された日本近代文学15作家のそれぞれの作品(そのほとんどは全く研究されていない)について、新聞雑誌(『語絲』『晨報副刊』『小説月報』『東方雑誌』などから調査予定)への掲載状況等を詳細に調査し、中国への翻訳紹介の実態と中国文壇との交流について分析を進める。また『現代日本小説集』末尾に付録として収められた「著者説明」を手掛かりに、魯迅兄弟が翻訳に当たって実際に使用した版本を確定し、入手経路等の具体的背景について検証する。同時に、魯迅兄弟の日本近代文学との接触状況について、日本留学時期、帰国後の文学活動を日記、回想記等に基づいて追跡する。 さらに、『現代日本小説集』以外の、魯迅と周作人の日本近代文学への取り組みについても、考察を進める。魯迅の翻訳と彼の文学活動の関係については、上述のようにいまだ詳細な探索の為されていない領域が少なからず残されており、また弟の周作人も、1918年に北京大学で「日本近三十年小説之発達」と題する講演を行って日本文学研究の先鞭をつけるとともに、やはり数多くの翻訳を行っており、こうした活動についても、先行研究の不足を補いつつ更なる分析を進める。彼らの選択を当時の日本文学界の状況と照らし合わせつつ、各作家作品に対する意識を探る。
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Causes of Carryover |
理由:【現在までの進捗状況】にも記したように、中国を含む海外への渡航の不便や国際関係の緊張により、現地での研究調査が思うように進まない状況が続いている。また、日本国内の調査についてもいまだ十分でない点を残している。本年度について使用できなかった部分について、次年度へと繰り越して有効的に使用する予定である。 使用計画:いまだ実現できていない、国内・海外の研究機関への訪問・実地調査を次年度には遂行し、残りの研究期間にて、当該研究に有効に活用していきたいと考えている。
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Research Products
(6 results)