2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K00365
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
小松 謙 京都府立大学, 文学部, 教授 (00195843)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 水滸伝 / 訳注 / 批評 / 金聖歎 / 読書 / 散曲 / 変文 / 演劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度においては、本研究課題にかかわる最も重要な文献である『水滸伝』についての研究を進め、主要テキストの完全な校勘と、容與堂本・金聖歎本の批評全訳を含む詳細な注釈、全文の翻訳、及び詳しい解説からなる著書『詳注全訳水滸伝』の制作を進め、第二巻と第三巻を刊行するとともに、第四巻の原稿をも完成させた。同書においては、『水滸伝』本文を詳細に読解し、原文のニュアンスを細部まで伝える訳文を附すとともに、本文の変遷を精密に跡づけることによって、刊行者・読者の両面から近代的読書が成立する過程を示し、更に批評の分析により、当時の読者の作品受容のあり方を明らかにしている。同書は大きな反響を呼び、これを読まずに『水滸伝』研究を行うことは困難になるつつあるという評価を得ている。あわせてこの訳注制作にかかわる講演を東京大学において実施した。 更に、宋・金の演劇・芸能及び元代における歌謡である散曲の研究である鄭振鐸『中国俗文学史』第七章・第九章の詳細な注釈を伴う翻訳を行い、解題を附した。これらは白話文学の状況と、それらが知識人に受容される過程を詳細に論じるという点で、本研究課題と密接な関わりを持ち、また特に第九章で引用されている大量の散曲本文を日本語訳したことは、これまでに例のない規模の訳業という意味で画期的な意味を持ち、すぐれた白話文学作品を専門家以外の人が読める形で示すという点で、研究成果の社会への還元という面でも重要なものである。この翻訳は2023年度中に刊行される予定である。 また、主催している敦煌変文研究会の成果として、共著論文『漢将王陵変文訳注』の(一)と(二)を『京都府立大学学術報告 人文』第74号と『和漢語文研究』第20号に発表した。これらは、初期白話文学作品の実態を解明するという点で、本課題と密接な関わりを持つものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究において最も重要な意味を持つ『詳注全訳水滸伝』の執筆が予定を上回るペースで進行し、全体の四分の一程度に当たる第三巻までの刊行を完了したのみならず、第四巻の原稿も完成させ、刊行準備に入った。 また、元来計画に含まれていなかった鄭振鐸『中国俗文学史』第七章・第九章の翻訳を行い、詳しい注釈と解題を附して完成させた。この部分の内容は、白話による芸能が知識人に受容される過程と深く関わるものであり、元来の計画外のこの活動を行ったことにより、本研究は当初の予定を超えて広がりを見せることになった。 更に、敦煌変文「漢将王陵変」訳注を共著で作成・発表したことは、本研究の前段階における白話文学の実態を明らかにする上で重要な研究活動であり、これも当初の計画を超えた内容といってよい。 また『詳注全訳水滸伝』と『中国俗文学史』は、ともに一般読者に向けて刊行されるものであり、研究成果の還元という点でも重要な価値を持つ。これらの刊行を予定を超えて進めることは、当初の計画を上回るものである。
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Strategy for Future Research Activity |
『詳注全訳水滸伝』の執筆を進め、第四巻以降の原稿を完成させて順次刊行する。同書においては、解説・注釈の形で、時代を追って本文が変遷していく過程や内容の分析などを通して、近代的読書がいかに成立し、変化していったかを明らかにする予定である。 更に、同訳注とかかわる書籍を共著で刊行する予定である。同書では、『水滸伝』が近代的読書成立の過程でいかなる意義を持つかを中心に論じる予定である。 また、この研究の成果をよりわかりやすい形で社会に還元するため、そのエッセンスともいうべき一般読者に向けた『水滸伝』の内容を紹介する書籍を執筆し、本年度中の刊行を目指す予定である。この書籍の刊行により、幅広い読者に『水滸伝』が近代的読書成立の過程においてどのような役割を果たしたかを理解しやすい形で示すとともに、「読書」という行為自体についても改めて考える機会を提供することを目指す。
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Research Products
(5 results)